だが、その正体は次第に明らかになり、若年層が重症化する懸念が減り、ワクチン接種も普及した。そして次第に、ひどい損害を受けた経済活動の復活のために「ウィズコロナ」に政策転換する必要性も生じてきた。その過程で、「2類相当は厳しすぎる」と考える層が増えてきた。

 そして実際に、政府による新型コロナ対策は徐々に緩和され、「2類相当」から乖離(かいり)し始めた。

区分は「2類相当」のまま
「全数届け出」などの規制は緩和

 例えば2022年9月には、新型コロナに関わる「全数届け出」の規則が全国一律で緩和された。医療機関が保健所に提出する「発生届」の対象になる患者は、65歳以上の人、入院を要する人、妊娠している人などに限られるようになった。

 また、医療体制の崩壊を防ぐために、新型コロナの感染者を全員入院・隔離させるのではなく、重症者の入院を優先する医療体制への移行が進んだ。軽症者は外出しないことを前提に、自宅での安静・療養を原則とする形に変わってきた。

 このように新型コロナの区分は「2類相当」のまま、医療体制の状況などに合わせて、現実的な対応が取られるようになってきた。

 だが現在は、一度は落ち着いたかに見えた新型コロナの感染が急拡大している。目下襲来中の「第8波」では、高齢者や基礎疾患の悪化を要因とする死者数が過去最多水準に達した。

 そんな中で、区分を「5類」に変更してしまうと、新型コロナに対応し切れない問題がどうしても残る。冒頭でも述べたが、医療費の公的負担がなくなり健康保険での診療になることで、国民の懐は痛む。

 新型コロナの治療薬やワクチンは高価で、患者の収入次第では適切な医療を受けられない可能性もあり、国民の不満が高まる懸念がある。

 こうした事情から、「5類」への変更には慎重論も根強く、2年以上も延々と議論が繰り返され、時間だけが過ぎていった。

 2020年当時、すでに多くの政治家、医療関係者、有識者が新型コロナの区分変更を主張し、安倍晋三首相(当時)も辞任を発表した記者会見で言及した。だが、次の首相に託した重いメッセージは、その後もなかなか実現に至らなかった(第259回)。

 そして今、ようやく岸田首相が重い腰を上げ、分類変更に乗り出したわけだ。

 今後は、岸田首相の指示を受けた厚生労働省が、諮問機関の「厚生科学審議会」で5類への見直しを検討するという。同会には専門家が参加するというが、議論はまとまるのだろうか。

 前述の通り、「5類」への変更については世論が二分されている状況で、専門家からも異論が噴出することが予想される。

 もしくは、「5類に変更する」という結論ありきでつじつま合わせを行うという「官僚的」な話し合いが行われる懸念もある。

 実際にそうなった場合は、「第8波」の脱却に求められる、的確なコロナ対策が打てない事態になりかねない。結局、「5類」への移行はまとまらず「先送り」もあり得る。