学生時代に覚えた英単語や文法は忘れてしまった、年を取って暗記がつらい――。特集『一度覚えたら忘れない英語勉強法』(全16回)の#1では、そんな悩みを抱える人に、東京大学の酒井邦嘉教授が言語脳科学に基づいた、日本一易しい「忘れない」勉強法を伝授する。(構成/冨田ユウリ)
子どもの英語習得が早いのは
「記憶力がいいから」ではない
「年を取って記憶力が衰えた。若いうちにもっと英語を勉強しておけばよかった」と後悔している人は少なくないだろう。一般的に語学学習は若い方が有利とされているが、果たして本当にそうなのか。言語脳科学者である、東京大学大学院総合文化研究科の酒井邦嘉教授はこう話す。
「勉強しなければ英語は身に付かない、という認識自体が間違っています。皆さん日本語は学校で教えられる前から自然と話せますよね。学習するにつれて、語彙力が伸びたり解釈の幅が広がったり、ということはあります。しかし、国語が苦手という人も、日本語は話せるわけです。日本語を母語とする人で、五段活用をきちんと理解できていないから話せない、という人はいません」
つまり、人間は文法などの法則を基に話しているわけではない。教科としての英語の勉強が苦手だから英語が話せないわけではなく、言語に得意も苦手もないという。
「確かに子どもの方が語学の習得は早いですが、それは記憶力がいいからではなく、素直だから。理屈がないからです」
言語を習得できるかどうかは、耳で言葉を聞いたときの音の捉え方が分かれ目となる。ここでも、子どもの方が大人よりも音の習得が早いが、それは記憶力よりも考え方にある。
脳には、生まれながらに
あらゆる言語を獲得する能力がある
「子どもは音をそのままストレートに覚えます。幼い子どもがまだ意味も分かっていないのに、CMで流れる歌を口ずさむことがありますよね。現在完了ってなんだろう、関係代名詞ってなんだろう、これはどういう意味だろう、といちいち疑問を持たずに言葉をただ音として聞く。自然な言語の習得の流れは、音を先に覚え、意味は後からなのです。意味をいちいち考えてしまうから、大人になるにつれて英語の音を覚えにくくなるといえます」
意味を先に理解することは学習であり、言語は学習して身に付くものではない。脳には、言語を後天的な努力によってではなく、生まれながらに自然に獲得できる能力が備わっているという。
「脳には複数の言語に対応できる柔軟性があります。言語学者のノーム・チョムスキーは『人間の全ての言葉に通用する自然法則がすでに脳には組み込まれている』と提唱しました」
米マサチューセッツ工科大学名誉教授であるノーム・チョムスキーは現代言語学の父と評される。幼児が知能の高まっていない段階でスピーディーかつスムーズに言語を覚えていくことに着目し、言語を聞き分け自ら話すという能力は、日本語、英語、と言語の種類は関係なく脳にもともと備わったものであると唱えている。
年齢を重ねても、脳にはこの能力が備わっているため、酒井教授は大人からでもバイリンガルやトリリンガルになれる可能性があると話す。
「生まれながらに脳にはあらゆる言語を獲得する能力があり、その潜在能力を引き出せれば自動的に言葉を話せるようになります。誰でも例外なく、言語が自然と身に付くように脳はできているのです」
ただし、日本人には英語をうまく習得しにくい原因があるという。
次ページでは、日本人には英語をうまく習得しにくい原因を明らかにする。そして言語脳科学に基づいた、日本一易しい「忘れない」英語勉強法を伝授する。