初心者が高速で英語を聞くことは
英語の習得には逆効果

 聞く教材といえば、高速で聞くことで耳を英語に慣れさせようというコンセプトのものもある。しかし初心者が高速で英語を聞くことは、英語の習得には逆効果だという。

「初心者にとってはむしろ『ゆっくり』聞く方が効果的でしょう。通常のスピードでも英語の音をキャッチできていない部分があるのに、高速で聞いて聞き取れるはずがありません。ゆっくり聞き始めて、徐々にスピードを上げていきましょう」

「聞き流すだけ」の英語教材で上達しない理由、言語脳科学者が教える危ない英語教材の見分け方酒井邦嘉(さかい・くによし)/東京大学大学院教授。言語脳科学者。1964年生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。米マサチューセッツ工科大学客員研究員等を経て2012年より現職。著書に『言語の脳科学』他多数。

 発音を徹底して学ぶことでリスニング力を上げようとする教材もあるが、英語をきちんと聞けるようにならなければ正確に発音できないため、最初は聞くことを徹底した方がよいという。加えて、個々の単語を正しく発音できることよりも、文のどこを強調するかの方が大事だ。

「個々の発音よりも文全体のアクセント、どこを強く読むかが重要です。単語をきれいに発音できていても、文のどこを強調するかによって意味が変わってくるケースもあります」

 語源を学ぶことで単語は覚えやすくなるとうたう教材もあるが、そもそも自然に生まれた言語を規則化することは難しいという。

「語源を知ることで、言語の奥深さを知ることができます。英語に触れることが楽しくなる点ではよいでしょう。しかし単語の語源の規則を理解したところで、例外はたくさんあります。単語を覚えるために語源を知りたいとすると、難しいかもしれません」

 また、単語を覚えても、文を作れなければ英語は話せない。日本語では名詞だけでも会話になるが、英語は動詞がなければ意味が伝わらないからだ。そのため、文のパターンを覚えることは効果的。しかし「これだけのパターンを覚えたから大丈夫」という考えには注意が必要だ。

「文法のパターンも単語と同様、無限にありますし、例外だらけです。自然の言語を規則に無理やり当てはめることなどできないのです。ですから、これを覚えたら英語が身に付く、というパターンはありません。いかに英語に触れるか。まさに習うより慣れよだといえます」

 語学と音楽の習得は非常に似ていると酒井教授は話す。歌い方を理解したからといって、歌うことが上手になるわけではない。語学も同じ。上達するためには、教材に頼るのではなく、英語に触れ続けることだ。

Key Visual by Kaoru Kurata