安倍元首相の後ろ盾を失い
孤立する高市氏
高市氏は岸田文雄政権の一閣僚にすぎない。仮に総務省文書が「捏造ではなかった」ことが証明され、高市氏が閣僚・議員を辞職したとしても、岸田政権の命運に関わることにはならない。
野党側も、安倍政権下の疑惑を「批判の種」にして、岸田政権を追い込むことは難しいといえる。
岸田現首相は、高市氏の辞表を淡々と受け取り、後任の経済安保相を決めるだけだろう。岸田氏は安倍政権当時、この問題に直接関わっていたわけではなく「他人事」だ。
自民党や官僚組織も、高市氏を積極的に守ろうとはしていない印象だ。高市氏は一時、総務相在任時に「大臣レク」を受けたことを強く否定していたが、総務省側はレクの実施を否定しなかった。
さらに、松本剛明・現総務相は、立憲民主党からのヒアリングで「一般論として、捏造した内容を行政文書にすることがあり得るか」と問われた際に「捏造に関わる者はいないと信じたい」と答えたという。高市氏の国会答弁を支持したとはいえない回答だ。
「森友学園問題」の際、財務省が公文書の書き換えをしてまで、安倍元首相を守ろうとしたのと対照的である。
とはいえ、高市氏が類いまれな手腕を持つ、経験豊富な政治家であることは疑いない。
同氏は21年9月、自民党総裁選に立候補。敗れたものの、堂々たる将来の総裁候補として台頭した(第285回・p3)。岸田政権では政調会長・経済安保相の要職を務めてきた。
ただし、高市氏は無派閥だ。元々は安倍派(清和会)に所属していたが、11年に離脱している。その後も安倍元首相が高市氏の「後ろ盾」となっていたものの、安倍派内には高市氏に根強く反発する議員が存在してきた。
安倍元首相が亡くなった今、高市氏を守ろうとする人は官僚組織にも自民党にも少なく、高市氏は孤立している印象だ。
政権をトカゲに例えるならば、高市氏は岸田政権というトカゲのしっぽでしかない。しっぽを切りさえすれば、本体は無事だ。
にもかかわらず、高市氏は自らがトカゲの本体になり得ると考えたのだろうか。
もし総務省文書の内容が事実であれば、強く否定した高市氏は虚偽答弁を行ったことになる。かつて放送法の解釈を変えるような発言をしたことについても、さらなる批判が降りかかるだろう。
そうした立ち位置にもかかわらず、軽々しく「辞任」を口走ったことには疑問が残る。仲間が少ない高市氏が、「総理総裁候補になれたのは自らの力だ」「自分はトカゲの本体だ」と過信したのであれば、間違いだと言わざるを得ない。