テルモやオリンパスなど、主力企業の多くが2023年3月期に最高益を更新した医療機器セクター。低侵襲の医療機器を武器にROEの高い企業がそろうが、意外にも中長期では複数の不安要素があり、かじ取りを誤ると急失速する可能性もある。果たして、日本の医療機器メーカーは世界で活躍する「グローバルメドテック」に進化できるのか。特集『日本再浮上&AIで激変! 5年後のシン・業界地図』(全16回)の#3では、変貌する医療機器市場を分析しつつ、中長期で活躍する本命企業を探した。(ダイヤモンド編集部 篭島裕亮)
過去10年は33業種の勝ち組だったが
今後は変化に対応できないと負け組に
「業界環境は厳しく、何も対策しなければTOPIX(東証株価指数)に負ける可能性が高い」――今後5年間の医療機器セクターの株価について、みずほ証券の森貴宏シニアアナリストは厳しい見方をする。
過去20年の医療機器セクターは、東京証券取引所33業種の中でも「いいイメージのセクター」(森氏)だった。世界的な市場拡大を背景に、業績が右肩上がりで、景気変動にも強かった。
「国内は年平均2~3%成長だが、海外は年平均10%成長。各社とも海外で売上高を伸ばすことで成長してきた」(SMBC日興証券の徳本進之介シニアアナリスト)
2023年3月期もオリンパス、テルモ、シスメックスなど主力企業は最高益を更新している。ROE(自己資本利益率)や売上高利益率が2桁以上の高収益企業も多い。新型コロナウイルスの感染拡大で病院に補助金が出たことや、円安も業績をかさ上げした。
業績だけでなく、投資対象としても医療機器セクターは強かった。直近10年の株価は、主力企業の多くがTOPIXを大きく上回って推移している。
例えば、日本ライフラインは底値から一時は30倍以上に株価が上昇。「医療の方向性と、メーカーの取り組みが合致して時流に乗ると急拡大できるセクター」(森氏)でもある。
では、なぜ中長期ではビジネス環境が厳しくなるのか。実は、すでに顕在化しつつあるリスクも含めて、医療機器メーカーには三つの逆風が吹く可能性がある。
「外部環境が良好であれば、従来の路線でよかった。だが、構造的に厳しくなる中で成長するには、変化する努力が欠かせない」(森氏)
果たして、日本の医療機器メーカーは今後も世界で存在感を発揮して、業績を伸ばすことができるのか。次ページでは、医療機器セクターの「三つの逆風」を紹介。その中でも「変化」することで浮かぶ企業、現状のままでは失速しかねない企業について具体名を挙げて解説していく。