「大阪」沈む経済 試練の財界#21Photo by Kazuki Nagoya

西日本有数の私立総合大学として、地元企業に多様な人材を送り込んできた近畿大学。志願者数日本一を誇り、存在感を高める近大が足元で力を入れ始めたのが起業家の育成だ。「日本のスタンフォードになる!」。近大躍進のキーマンでもある世耕石弘経営戦略本部長はそうぶち上げる。特集『「大阪」沈む経済 試練の財界』(全23回)の#21では、世耕氏を直撃し、起業家を生み出す秘策を聞いた。(ダイヤモンド編集部編集委員 名古屋和希)

近大は地元の中小企業の「ミカタ」
25年までにベンチャー100社を生み出す

――近畿大学の産学連携の取り組みについて聞かせてください。

 近大の建学の精神には「実学教育」が掲げられています。もちろん大学では基礎研究も重要ですが、実用に近い部分に力を入れているのが特徴です。

 クロマグロの養殖で有名になった水産研究所は象徴的な例といえます。1970年から32年かけて実現したクロマグロの完全養殖は、まさに実学に長く取り組んできた成果です。

 また、創立から文理両方に力を入れています。近大は現在15学部49学科を誇る総合大学ですが、定員の半分が理系です。これは関西の他の大学に比べてもかなり高い比率です。

 そして、工学部は広島県に、産業理工学部は福岡県にキャンパスがあります。実は50~60年代にかけて工学部はマツダから、産業理工学部は新日鐵(現日本製鉄)からそれぞれ要請があり、学部を開設しました。つまり、地域や産業のニーズに応えて、人材を育成してきたわけです。

 近大のメインキャンパスがある東大阪市は中小企業や町工場の集積地です。大学の外にフラッと出れば、高い技術を持つ中小企業があちこちにあります。

 一方で、中小企業は研究機能を持っていません。そこで、近大がその役割を担うわけです。教員や学生らが中小企業の製品のデザインなどに関わることもあります。大手企業と組む大学も多いですが、われわれはあくまで中小企業の「ミカタ」なのです。

――学生の就職事情は。起業を目指す学生はいますか。

 大手企業を志望する学生が多いです。しかし、大手企業に入ってみんなが活躍できるかというとそれは分かりません。中小企業であっても経営に近いところで働けるかもしれませんし、学生には自分自身に合った就職先を見つけてもらうようサポートしています。

 そして、これから力を入れるのが起業家の育成です。近大発の起業支援プログラムを立ち上げました。2025年までに100社のベンチャー企業を生み出したいと考えています。

 もともと近大は卒業生の社長数では関西でナンバーワンを誇ります。米国では、伝統的な産業を持つ東部に対抗して、西部でITを中心としたベンチャーがたくさん生まれてきました。近大も西に位置していますし、目指すは「日本のスタンフォード(大学)」です。

次ページでは、「日本のスタンフォード」を目指すとぶち上げた世耕氏が、起業家育成の目玉施策として、日本の大学では極めて珍しい施設をオープンさせると明かす。ソフト面で学生の起業への意識を高める、ある仕掛けも種明かしをする。また、4月に新設した大人気学部を柱に、地元企業にIT人材を大量供給する計画も明かした。