契約書の「弁護士丸投げ」は控えて自分でまず理解すべき
僕が日本と米国で営業や提携、コーポレートデベロップメントをしてきた、あくまで個人的な経験では、職種によらず、日本と米国とでは契約交渉における弁護士の活用方法が若干異なる傾向を感じた。
日本のビジネスの担当者は、契約書の交渉を丸ごと法務部と弁護士にアウトソースしてしまうきらいがある。社内の意思決定プロセスがその背景にあるのかもしれない。
担当者は、営業や提携にあたって、大まかな条件を相手方と握って、契約書の詰めは自分の仕事ではないという感覚を持っている人が多いのではないか、と感じる。かたやアウトソースを受けた弁護士(または法務部)は、技術的なリスクを洗い出してばーっとリストを作り、あとはよきに交渉よろしく、私は言いたいこと全部言いました、という勢いで、担当者に投げ返す。担当者はそれをまた一旦全部相手に投げて、相手も同じことをして契約書が戻ってくる。つまりビジネス担当者は、まずは双方の弁護士(または法務部)同士のすり合わせ作業におけるメッセンジャー的な役割を果たして、最後に残った論点について双方の力関係に応じて妥協を繰り返して契約書が固まっていく、という具合だ。
一方、米国のビジネス担当者は傾向として、契約書の文言を言語としてまず自分で理解し、技術的な部分について、弁護士の助けを求める。契約交渉のより大きな部分を担当者同士でまず行うのだ。
米国の優秀な弁護士と仕事をして感心したのだが、弁護士のアドバイスは「テクニカルにここは有利・不利に作用する」「これは落とし穴」といった法務アドバイスにプラスして、市場感も教えてくれることだ。
例えば契約時、優先分配権について「一倍参加型、というのは昔はあったけど、今のデフォルトは非参加型。最近市況が変わって参加型もちらほら戻ってきたけど、まだまれ」と知らせてくれたり、「この部分、気に入らなかったら交渉してもいいけど、自分が見てるディールの中でこうなってるのは2割くらいだけだし、先方の弁護士も知ってると思うよ」「この条項は不利に見えるけどぶっちゃけ重要度低いので、時間を使うべきではない」など、交渉に当たってのマーケットの感覚を教えてくれたりする。そういう背景があるので、ビジネス担当者同士が自分の考えで交渉でき、より短時間で契約が固まってくるのだ。
起業家にとって資金調達は、交渉すべきパーツが多く、交渉力の非対称性も情報の非対称性と同じ方向に作用している。さらに、全体的に国内の「市場感」は短期的なリスク回避を重視する状態にとどまっているので、日本の場合、起業家のより深い理解が求められる。