(3)資本主義の従来ルールが変わる
一般の投資家が「おいしい話」に投資できなくなる時代が来る
さて、今回の資本提携の発表を受けて、発表の翌日、2月7日の株式市場ではローソンの株価は15%も上昇しました。これまでローソン株を保有してきた投資家には今回のニュースは良いニュースだったわけですが、たとえばこの記事を読んでローソンへ投資をしてみようかと考える方には、ちょっと肩透かしな結果になるかもしれません。
というのは、もともと50%を三菱商事が保有するローソン株に対して、新たにKDDIがTOBをかけて残り50%の取得を目指すということになると、この提携が成功すればローソン株は上場廃止になるのです。
逆に、新規に値上がりしたローソン株を保有して株主であり続けようとしても、KDDIが十分な株式を入手できなければこの話自体が破談になってしまいます。破談になれば株価は元の木阿弥で、15%低い元の状態に戻ってしまうかもしれません。
要するに今回の資本提携は、ローソンの企業価値を大きく引き上げる可能性がある提携であると同時に、一般の投資家は手が出しにくい話になっていくのです。
そして仮に、今回の資本提携が大成功したとします。すると大企業は、新しい資本ルールに気づくようになります。
要するに大企業が手掛ける成長分野の投資は、株式公開をしないほうが有利だと考えるようになるのです。
アメリカの資本市場にはユニコーン企業と呼ばれる、時価総額が10億ドル(約1500億円)を超える非公開企業が多数存在しています。問題はその理由です。
以前はアメリカでは、有望なベンチャー企業は利益が上がらないうちから株式市場に公開して資金を調達して、その資金で成長を目指すというのが成功の定石でした。ところが、2010年代に入るとこのルールが変わります。巨大なベンチャーキャピタルが、「成功しそうなベンチャーであれば自分でどんどん資本を供給して、大きくなったあとで株式公開したほうがもうかるのだ」と気づいたせいです。
実際、この10年間で世界のユニコーン企業は増加の一途です。これを言い換えると、おいしい話には一般の投資家は投資できなくなる時代がやってきているということです。
ローソンと似た話に、ソニーとホンダが提携するソニー・ホンダモビリティがあります。次世代の自動車を開発するという事業を資本力のある2社が提携して、外部からの資金調達に頼らず社内ベンチャー企業をユニコーンに育成しようとしているのです。
これは以前、経営コンサルタントとして日本の小さなベンチャー企業支援をしていた頃に私がつくづく感じたことですが、日本という社会風土では、ベンチャー企業は成長軌道に乗り始めたら大企業の傘下に入ったほうが成長しやすいのではないかというようにみえます。
ドラマ『下町ロケット』をご存じの方は思い出していただければわかりやすいのですが、日本にはベンチャーが育ちにくいビジネス慣行が存在しているのです。
ある意味で、この先の日本を変えていくような新しいビジネスモデルは、今回のような大企業同士の提携で進めたほうが日本では成功する可能性が高いわけです。
ローソンの提携が成功すれば、そのことがよりはっきりするかもしれません。
はっきりと書くことは差し控えますが、KDDIにはもう一つ小売り分野で大型買収の可能性があって、おそらくそのこともあり、記者会見では3社ともGAFAを強く意識していたものとも推測されます。
この流れが定着すると、良いこととしては日本経済が再び活性化して、異業種大企業同士が手を組みながら新しいビジネスを作り上げるというプラスの経済活動が活発になることです。一方で、一般の投資家はそのような企業に投資をすることがますます難しくなるでしょう。
これは当然のことですが、そのような世の中になれば、株式市場では三菱商事やKDDIに投資をする人が増えていきます。つまり社内でユニコーンを育てるトレンドが生まれると、資本市場の中で、より巨大な企業の時価総額が群を抜いて大きくなるという現象が起きていくわけです。
現に、アメリカの資本市場を見てください。ユニコーンと呼ばれるIT企業の多くがマグニフィセントセブンと呼ばれるアップル、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、メタ、テスラ、エヌビディアの7社から資本を供給されています。そしてそのマグニフィセントセブンが、アメリカの上場企業500社のインデックスであるS&P500の3割を占め、かつ、S&P500指標の上昇の原因の大半を説明するという状態が起きています。
ローソンのTOBが、もしローソンとセブンの業界順位逆転という結果を生み出した場合には、日本の株式市場のルールが大きく変わり、日本もマグニフィセントセブンのように「資本が資本を生む形で成長する新しい大企業」が支配する経済構造へと変わることになるかもしれません。
このように考えると、ローソンをめぐるニュースは間違いなく2024年の重大ニュースなのです。