(2)コンビニのビジネスモデル自体がおそらく変わる
既存の“追い出しモデル”は機会損失かもしれない
ここまで説明してきた、新戦略はあくまでセブンの既存のやり方に対抗する戦略の話です。その枠も、新しい提携は超えていくかもしれません。
コンビニエンスストアのビジネスモデルとは、狭いお店に効率重視で商品を並べ、顧客には用事が済んだらすぐに帰れと促す“追い出しモデル”です。あれだけ集客力がある店舗であるにもかかわらず顧客の回転率は速すぎて、店内には常に数人の顧客しか滞留していません。
不動産の利用効率を極限まで高めるという、コンビニのビジネスモデルとしては当然のものですが、実はGAFAをはじめとするIT大手のビジネスモデルとは大きく相反するのがコンビニのビジネスモデルでもあります。GAFAのビジネスモデルはむしろ顧客の滞留をどれだけ長くするのか、どれだけ長時間自社のサービスに依存させるのかを重視します。そしてKDDIが得意とするのは、そのような後者のビジネスモデルです。
この話は話し始めると長くなるので、なるべくコンパクトに説明します。たとえば「コンビニのファミレス化」といったキーワードを想像してみてください。
高校の授業が終わった後、下校途中の生徒たちがたむろしようとしてコンビニに立ち寄っても、買い物が済んだらすぐに追い出されるのが今のコンビニです。それで仕方なく、公園にたむろするわけです。
ちょっとお金がある生徒たちなら毎日、ファミレスや回転ずし店にたむろして仲間とぺちゃくちゃしゃべるのを楽しみにするわけです。それが日本が貧しくなるにつれて、たむろする場所がSNSに移行して、現在のZ世代に至るのが若者のつながり方の変遷だと想像してみましょう。
なぜコンビニはファミレスや回転ずし、SNSに滞留の利益を譲っているのでしょう?
このような思考から気づくことは、要するにコンビニには過去50年の進化の過程で切り捨ててきたビジネスモデル上の可能性がたくさんあるということです。中でも顧客を素早く追い出す現モデルから、顧客の滞留を促す別の可能性へのシフトには一定の魅力があるのです。
これまでの制約としては、「とはいえリアルな不動産の制約を考えたら“追い出しモデル”のほうが効率がいい」ということでした。ところがそこに、IT空間軸が加わると話が変わってくるかもしれないというのが今回のKDDIとの資本提携の重要な側面です。
つまり、顧客はサイバー空間上では常にローソンにログインした状態で、そこでの行動体験の一部として頻繁に(とはいっても1日2~3回程度でしょうが)コンビニ店舗に立ち寄るといった新しいタイプのビジネスモデルは考えうるモデルなのです。
これはセブンがかつて「オムニチャンネル」として検討をして挫折をしたビジネスモデル進化とも関係する話で、その意味でKDDIがローソン陣営に加わる意味は大きいと考えられるのです。
ローソンとしてはこの秋をめどに何らかのビジネスモデルを発表し、完成させた暁にはアジアなど海外に展開していきたいということです。実はGAFAの一角であるアマゾンは、アマゾンゴーという新しいコンビニモデルに挑戦したのですが、どうも失敗し、戦線縮小に向かっている様子です。
だとすれば、ローソンにはアジアでアマゾンに代わる覇者になれる可能性もあるわけで、この2番目の可能性は注目すべきことなのです。