セブンがポイント市場に電撃参入!Tポイントの危機を救った“カリスマ”鈴木敏文氏の失策セブン&アイ・ホールディングスの独自電子マネー「nanaco(ナナコ)」の開始セレモニー。(左から当時の)イトーヨーカ堂の亀井淳社長、セブン&アイ・ホールディングスの村田紀敏社長と鈴木敏文会長、セブン-イレブン・ジャパンの山口俊郎社長、アイワイ・カード・サービスの山本俊介社長 Photo:JIJI

日本初の共通ポイント、Tポイントの浸透を急いでいたカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に最悪のシナリオが訪れる。流通の巨人、セブン&アイ・ホールディングスが2007年に電子マネーでポイント市場に電撃参入したのだ。しかし、同社会長の鈴木敏文氏が犯した致命的なミスで、市場制覇の野望はついえることになる。長期連載『共通ポイント20年戦争』の#13では、Tポイント陣営が胸をなで下ろした“カリスマ”の失策を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)

セブンがポイント市場に電撃参入
“カリスマ”が犯した二つのミス

「セブンがポイントを始めるんじゃないか」。2005年秋、Tポイントを生んだカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)副社長、笠原和彦の耳にそんなうわさが入ってきた。セブンとは、流通の巨人、セブン&アイ・ホールディングスのことである。

 03年秋にCCCによって立ち上げられた日本初の共通ポイントは、新日本石油(現ENEOSホールディングス)とローソンという大きな加盟店を有していた。だが、さらなる大手企業の加盟交渉は苦戦が続いていた。

 Tポイントの独自戦略が各業界の最大手を囲い込む「ナンバーワン・アライアンス」である。業界の最大手を囲い込むことで、同じビジネスを立ち上げようとするライバルは、業界の2番手や3番手と組まざるを得なくなる。

 共通ポイントの構想時から、笠原が最も懸念していた点が、強力なライバルの登場である。CCCよりも資本力や顧客基盤を持つ大手企業が参入することを危惧していたのだ。独自戦略の最大の狙いもライバルつぶしである。だが、囲い込みは思うようには進んでいなかった。

 そこに参入してきたのが、セブン&アイである。日本のコンビニエンスストアの“生みの親”で、セブン&アイ会長の鈴木敏文が指揮するセブン-イレブンは流通業界では圧倒的な存在感を誇る。

 実際、Tポイントの立ち上げ前に、笠原はセブン-イレブンを“大本命”としてアプローチしていた。セブン-イレブン創業時のメンバーだった鎌田誠晧に構想を打ち明け、参画を求めたのだ。

 しかし、鎌田は興味を持ったものの、話は進まなかった。「ポイントはやらない」。鈴木のそうした方針が背景にあったとみられる。だが、その鈴木がポイント市場への進攻を決めた。Tポイントにとっては最悪のシナリオだった。

 07年4月23日、東京・四ツ谷にあるセブン&アイの本社前で、流通系では初の電子マネー「nanaco(ナナコ)」の誕生セレモニーが開かれた。鈴木に加え、セブン&アイ社長の村田紀敏、セブン-イレブン・ジャパン社長の山口俊郎、イトーヨーカ堂社長の亀井淳、アイワイ・カード・サービス社長の山本俊介といった最高幹部5人がテープカットし、スタートを宣言した。

 そして、そのわずか4日後、セブン&アイの宿命のライバルであるイオンも独自の電子マネー「WAON(ワオン)」をスタートさせる。前月には鉄道会社系の電子マネー「PASMO(パスモ)」がサービスを開始しており、市場は一気に電子マネーブームに沸くことになる。

 スタートからわずか1カ月で、nanacoの発行件数は100万件を突破し、全1万2000店で利用できるようにもなった。ロケットスタートに成功したセブン&アイがポイント市場を席巻するというシナリオが現実味を帯びていた。

 だが、セブン&アイの野望はまもなくついえることになる。理由は大きく2つある。ともに“カリスマ”が犯した致命的なミスに起因している。