FPパートナーが特定生保の割り増し評価ストップ、「おねだり代理店」陥落の深層

大型乗り合い代理店FPパートナーに対する巨額の広告費などの便宜供与で、比較推奨販売を歪めるおそれがあると懸念されている問題。実態把握を進める金融庁の怒りの矛先は、唯々諾々と代理店に従った生命保険各社に向けられている。それにより、広告をはじめとした便宜供与は軒並み封じ込められつつあるが、FPパートナーだけでなく全ての代理店に波及することになりそうだ。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)

FPパートナーの巨額広告費問題で
金融庁の怒りの矛先は生保各社に

 生命保険系の大型乗り合い代理店「マネードクター」を展開するFPパートナー(以下、FPP)。そのFPPによる「プライム市場上場記念キャンペーン」をめぐる問題が、大きく波紋を広げている。

 このキャンペーンについては、ダイヤモンド・オンライン『乗り合い保険代理店最大手・FPパートナーの社内キャンペーンに透ける、生保会社との「もたれ合い」の構図』で詳述した通りだ。

 FPPが運営する家計について相談する店舗「マネードクタープレミア」のサイネージ広告に、多額の広告費を支払った生保の多くが上場記念キャンペーンで評価が割り増しになっており、その生保の商品を販売した営業担当者に付与されるストックオプションの評価と連動する形になっていた。

 2年連続で9600万円を支払ったアフラック生命保険と2年で6000万円を支払ったSOMPOひまわり生命保険は共に5倍評価となり、5000万円のメディケア生命保険と2700万円の東京海上日動あんしん生命保険は3倍の評価といった具合だ(商品によって倍率は異なる)。

 もっとも、600万円の広告費を支払ったチューリッヒ生命保険は割り増し評価がなかったり、広告費を支払っていない三井住友海上あいおい生命保険やFWD生命保険の評価が、それぞれ5倍と3倍の割り増しになっていたりするなど、必ずしも広告費と割り増し評価が連動しているわけではない。

 とはいえ、上場記念キャンペーンだけでなく、成績の優秀な営業担当者を表彰する制度においても、特定生保の評価が割り増しになっている。要は、「広告費や手数料の多寡、合同研修での費用負担、担当者のいなくなった孤児契約や廃業代理店のあっせんなど、FPPに対して何らか経済的なメリットを提供している生保が優遇される」というのが生保業界の共通した見解だ。

 むろん、商品特性や保険金の支払い体制なども選定基準に加味されているが、「経済的メリットの提供について、FPPから強烈なプレッシャーをかけられている。断れば、推奨商品から外されてしまうかもしれない」と複数の生保幹部は明かす。

 ゆえに、2016年の改正保険業法で定められた、顧客の意向に沿った商品の提案を義務付け、複数の商品を比べて説明する「比較推奨販売」を歪めているのではないか、との懸念がもたれているわけだ。

 そこで金融庁は6月、FPPおよび複数生保への実態調査に乗り出した。それと同時に明らかになったのが、朝日生命保険傘下のなないろ生命保険がFPPと交わした1億2000万円の契約だった。詳細は後述するが、広告出稿は断ったものの推奨商品から外されることを恐れたなないろ生命は、資金捻出の理由を無理やりひねり出さざるを得なかったのだ。

 そうした実態が続々と明らかとなり、金融庁は再度7月に生保各社に報告を求め、より深い実態調査に踏み切った。さらに、締め切り日近くになって追加の報告を求め、幅広く代理店に対する生保の便宜供与の実態に切り込む姿勢も明らかにした。

「本来、生保と代理店は対等な立場のビジネスパートナーのはずだが、代理店からの要求に唯々諾々と従う生保の姿勢は情けない限りだ」と、ある金融庁幹部は憤る。

 金融庁の逆鱗に触れたと知った生保各社は、「逃げ遅れるな!」とばかりに一斉にFPPから手を引く姿勢を鮮明にし、広告出稿の途中解約と割り増し評価の取り下げを次々に申し入れた。結果、FPPの黒木勉社長は7月末の朝礼で、「8月1日から上場記念キャンペーンと社内の表彰基準における割り増し係数を廃止する」と全社員に伝える事態に至った。おねだりが過ぎたFPPが陥落した瞬間だった。

 もっとも、生保各社に経済的メリットを求める大型代理店はFPPだけではない。次ページでは、その実態に加え、なないろ生命とFPPの契約の中身、金融庁が報告を求めた内容について深掘りしていく。