3.「違い」を承認しあう

 対話のゴールは、意見を集約したり、誰かを説得したり、結論を出したりすることではありません。ただお互いの「違い」を認めあい、「自分とは違っているけれど、その理由は少し理解できた」「お互いについて、理解が深まった」となれば、ここでは十分です。

 1on1やチームの場でこのような対話ができれば、個々人の認識の違いが解消されて信頼関係が得られたり、自身が持っている強みや想いを周りの人が知って共感してくれたりすることになり、よい従業員体験となるでしょう。それはマネジメントに対する信頼やエンゲージメントの向上にもつながっていくはずです。

従業員の“本当のニーズ”
を引き出す対話術

 個々人の感情や求めるものの違いに配慮したEXデザインを行う上で留意するとよいのが、体験や感情に対するスピルオーバーとクロスオーバーの2つの効果です。

 スピルオーバー効果とは、ある活動領域での経験や感情が別の活動領域に影響を及ぼすことです。職場での人間関係や役割が家庭における振る舞いに影響を与えることや、逆に家庭の状況が仕事のパフォーマンスに影響をもたらすことを意味します。

 スピルオーバー効果はポジティブ・ネガティブ両面で起こり得ます。ポジティブなスピルオーバーは、たとえば「家庭が円満だと仕事に力が入る」「仕事が順調で、パートナーとの関係もうまくいく」「仕事で培ったスキルが地域の活動にも生きる」といったかたちで現れます。

 一方、ネガティブなスピルオーバーは、「仕事が忙しくて家族との時間をとれない」「家庭の問題で悩んでいるため仕事に集中できない」「副業が気になって本業に十分な注意を払えない」といったかたちで現れます。