クロスオーバー効果とは、ある人の経験や感情が会話や交流を通じて周囲の人に影響を及ぼすことです。職場においては上司の感情や機嫌が部下に影響する、家庭においては夫婦の感情や機嫌が互いに影響し合うという現象を指します。上司が不機嫌だと部下も元気がなくなり職場の雰囲気が悪くなる、夫が陽気だと妻や子どもも機嫌がよくなるなど、思い当たる経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

 こうしたスピルオーバー、クロスオーバーの効果を意識することは、従業員1人ひとりの体験や感情をより解像度高く理解するヒントになりますし、EXを高める仕組みや慣行をつくっていく上でのヒントにもなります。

働き方や価値観が変化した今
社員の「違い」に目を向けた対話を

 また、リモートワークの普及によって仕事と家庭の境界が曖昧になってきたこと、夫婦間の役割分担や家事・育児についての価値観が大きく変わってきたことで、スピルオーバー効果を意識する必要性はいっそう高まっているとも言えるでしょう。

 2つの効果を踏まえた人事施策としては、たとえば以下のような取り組みが挙げられます。

・フレキシブルな勤務時間……従業員が勤務時間を自らコントロールできるため、仕事と家庭のバランスをとりやすくなり、意欲向上につながる。

・健康的な生活習慣の奨励・支援……運動や健康的な食事についての啓発・教育や支援を行う。従業員の心身の健康が保たれることは仕事にも好影響をもたらす。

・家族ぐるみの活動の機会……家族で参加できるイベントや、職場に子どもやパートナーを同伴できる日を設ける。仕事に対する家族の理解、家族の事情に対する職場の理解を高めることにつながる。

・ストレス軽減のアクティビティの提供……ヨガのクラス、マインドフルネスのセッションなどの機会を設けることで、従業員のストレス軽減を支援する。

 もっとも、家族ぐるみのイベントのような施策については、「仕事とプライベートはしっかり分けたい」「職場の人に家族についていろいろ知られたくない」といった思いをもつ人もいるでしょう。仕事とプライベートの線引きについての考えは人それぞれですので、一部の人が居心地の悪さや不公平感を持つことのないよう配慮することも大切です。

 ここでも1人ひとりの「違い」に目を向ける対話は役に立つでしょう。