菅義偉が語る「経済安保に最も必要なもの」とは?半導体への異次元支援で再び半導体立国へ経済安保強化の一環としてTSMCなど半導体企業へ大胆な支援を行った結果、大きな経済効果も生じた(写真は熊本県のTSMC工場) Photo:JIJI

首相就任後の所信表明演説で、私が初めて取り上げたのが「経済安全保障」だった。近年、半導体などを中心に経済安保への危機感が高まるが、その対応には、まさに行政の縦割り打破の視点が必要だ。今回は、経済安保の取り組みについて述べたい。(第99代内閣総理大臣/衆議院議員 菅 義偉)

近年注目される経済安保は
縦割り志向では対処できない

「このたび、第99代内閣総理大臣に就任致しました。新型コロナウイルスの感染拡大と戦後最大の経済の落ち込みという国難のさなかにあって、国のかじ取りという、大変重い責任を担うこととなりました」

 2020年10月26日、国会で総理大臣として行った所信表明演説。その中で、史上初めて盛り込まれた言葉に「経済安全保障」がある。翌21年1月18日の施政方針演説でも、私は〈経済安全保障の確保に、政府一丸となって取り組みます〉と述べた。

 経済安全保障は、近年注目されるようになった新たな政策領域だ。18年ごろから激化し始めた米中貿易摩擦を発端とし、中国の経済における強みを政治的圧力として使う手法や、先端技術の伸びが軍事力の増強につながることへの警戒など、経済力が安全保障上の脅威となるリスクに備えるものだ。まさに経済と政治、軍事の領域にまたがる、広い範囲をカバーする政策であり、従来の縦割り志向では対処できない課題でもあった。

 そこで安倍政権期の20年1月、経済安保戦略の策定を年内に行う、との方針が打ち出された。当時の関心分野としては、機微技術の保護、中国製機器が世界的シェアを有していた次世代通信規格「5G」への対応などが想定されていた。

 そして同年4月には、国家安全保障局(NSS)に経済班が発足。発足式に出席した私は官房長官として「安全保障と経済を横断する領域で、課題は山積している。経済班発足は、わが国の安全保障政策の節目である」と述べた。

 この経済班には経済産業省、総務省、財務省、外務省、警察庁といった省庁の出身者を配置し、まさに縦割りを打破して任務に取り組む体制を整えたのである。

 走りだした経済安全保障体制の構築に、20年初頭から発生した新型コロナの流行も大きな影響を及ぼすことになった。コロナ禍による国際的な流通網の停滞、工場の閉鎖などにより、多くを海外、それも中国からの輸入に頼っていたマスクや医療用防護服の品薄が発生したのである。

 さらにはテレワークの急増でパソコンや通信機器などの需要が高まり、半導体不足が発生。夏ごろまでには「家電の修理ができない」「交通系ICが発行できない」といった影響を広く及ぼすまでになっていた。