【91】2003年
銀行を震撼させた「竹中プラン」
りそな銀行が実質国有化へ

 2002年9月、公的資金注入を頑強に拒んだ柳澤伯夫・元金融相が更迭され、小泉純一郎政権で起用された経済学者の竹中平蔵が金融相(経済財政相兼務)に就任した。

 竹中は就任から1カ月後に「金融再生プログラム」(竹中プラン)を発表する。主要行の不良債権比率を05年3月までに半減させることが眼目で、「不良債権処理を加速させる。競争力の弱い企業には退場してもらい、大銀行といえどもつぶれないとは限らない」「自己資本不足に陥った銀行には公的資金再投入や国有化も辞さない」などと発言し、銀行界を震撼させた。

 特に「国有化」というキーワードに大手銀行は激しく反発した。それに対して竹中は、03年1月25日号のインタビューで「(銀行国有化の可能性は)想定していないし、そもそも国有化の意味がよく分からない」と批判を煙に巻くような回答をしつつも、改革への強い意志を表明している。

2003年1月25日号「竹中平蔵・金融相兼経済財政相 不良債権処理にメドをつけ金融の将来像を議論したい」2003年1月25日号「竹中平蔵・金融相兼経済財政相 不良債権処理にメドをつけ金融の将来像を議論したい」
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『――銀行国有化の可能性は。
 想定していないし、そもそも国有化の意味がよく分からない。破綻して、一時国有化するという意味であれば、主要行のなかに破綻しそうなところはない。公的資金注入が国有化というのなら、今でもすでに入っている。「国有化」を口にする方がたに対しては、もっと責任ある議論をしてほしい。
――不良債権処理を厳格化するとデフレを加速させるという声は根強い。
 そういう議論からは一日も早く卒業しなければならない。治療の瞬間に痛みがあるからといって、放置するのが日本経済のためにいいのか。昨年9月まで、政府は不良債権処理が遅れているという非難を受けていた。ところが、再生プログラムの作成に着手すると、今度は不良債権処理を加速させるべきではないという意見が強くなる。これでは、改革は前に進まない。
 今回、政府は不良債権処理と表裏一体の関係にある「産業再生」のため、新たに機構を設置する。補正予算編成や先行減税など施策を総動員して取り組んでいくつもりである。
――金融再生プログラム後の金融のあるべき姿をどう考えるか。
 再生プログラムは、いわば宿題の積み残し。宿題を終えるにはあと2年半かかるが、この3月には一定の方向性を出し、4月以降は、金融の未来像がどうあるべきかということを、大きな政策テーマとして掲げていきたい。
 10年前には世界の銀行のトップテンに日本の銀行がいくつか顔を出していたが、(不良債権処理という)宿題に汲々とする間に大差がつき、今ではトップファイブに一行残るかどうかも怪しい。
 その意味でも3月期決算には注目している。決算は単に数字を示すだけのものではない。その数字に基づいてどのような経営を行うかという意思表示の場でもある。将来のあるべき姿を描く戦略と、それを構築するガバナンス能力が本当に銀行にあるのか。その点が決算では厳しく問われる』

 竹中が「注目している」と語った03年3月期の銀行決算。大和銀行とあさひ銀行の経営統合で“弱者連合”と評されていたりそな銀行が巨額赤字を計上し、5月に2兆円規模の公的資金注入が決まる。実質国有化だった。

“りそなショック”は、他の銀行に不良債権処理を加速させ、財務の健全化を促す強力なメッセージとなった。05年には経営危機にあったUFJグループが三菱東京フィナンシャル・グループ傘下に入り、3メガバンク体制に集約された。大手銀行は大規模増資を行って自己資本比率を改善させるとともに、不良債権処理を加速。不良債権残高は02年3月期の268兆円から04月3期には136兆円へと着実に減少した。大きすぎてつぶせない“ゾンビ企業”と呼ばれ、先送りの象徴だったダイエーをはじめ、カネボウ、大京、兼松、熊谷組など過剰債務企業の処理にも軒並みメドをつけたのである。