ただし、同社の規模クラスの中堅OEM(相手先ブランドによる生産)企業が30年代以降の電動車本格化時代、あるいはSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)時代で生き残るためには、まだまだ多額の投資が必要という厳しい現実が待ち構えている。

 営業・マーケティング部門出身の毛籠社長は、23年6月に就任したばかりだ。「私の役割は30年に向けた経営方針の具現化と実行だ」(毛籠社長)と述べ、現在の第1フェーズにおいてトヨタ自動車との合弁による北米工場立ち上げとラージ商品群投入を実現。さらに、続く第2フェーズでは27年までに電動化のトランジション、第3フェーズではBEVの本格導入を行うというビジョンを明確に示すなど、リーダーとしての決意をこれまで披歴してきた。また、就任1年余りを経過して、新世代店舗の拡充など積極的な成長も目指している。

 マツダは、広島を本拠とする自動車メーカーであり、かつて世界初のRE(ロータリーエンジン)車で一世を風靡(ふうび)した。だが、REの燃費は悪く、オイルショック時には「燃料がぶ飲み」とやゆされ深刻な経営難に陥った。その後、メインバンクの住友銀行、資本提携先の米フォードなどに経営が翻弄(ほんろう)された時期もあり、紆余(うよ)曲折の歴史をたどってきた。

 15年にフォードの経営悪化によって同社から独立すると、17年にはトヨタと業務資本提携を結んだ。現在はトヨタが5.1%の株式を持つほか、ハイブリッドシステムの供給や北米工場の共同設立など、トヨタとの提携を具体化させているところだ。

 かつて米フォードグループとして大企業傘下のメリット・デメリット両面を享受した経験もあるマツダだけに、トヨタとの資本提携をうまく活用していく姿勢が見られる一方で、独自の「ブランド価値経営」を貫こうとしている側面も垣間見える。