2020年8月29日号「狂乱決算『7割経済』の衝撃」2020年8月29日号「狂乱決算『7割経済』の衝撃」
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『ANAホールディングス▲1088億円、日産自動車▲2856億円、出光興産▲813億円、日本製鉄▲421億円――。2021年3月期第1四半期(20年4~6月)決算では、リーディングカンパニーが相次いで巨額赤字へ転落した。
 新型コロナウイルスの猛威は企業業績を直撃し、文字通り、狂乱決算の様相を呈している。
 大手企業は金融機関に緊急融資を要請してキャッシュを確保。同時に、多くの企業が大幅な固定費カットによる利益の捻出策に着手している。資金調達とコスト削減という“危機時の王道”の2点セットで、損益計算書(PL)の体裁を整えようとしているのだ。
 しかし、である。本当の危機がやって来るのはこれからだ。ある大手銀行幹部は「自動車、重厚長大、航空、不動産などの業種に属する企業が、バランスシート(BS)不況に陥るリスクがある」と懸念を表明する。
 日本企業は二つの“厳しい現実”に向き合わねばならない。
 一つ目は、当分の間、コロナ前の経済状況には戻らないということだ。コロナ以降は、多くの産業において「7割経済=超縮小経済」になるといわれる。例えば、20年の世界の自動車市場は「2割減」となる見通しだし、リアル店舗を主体とする外食や小売りのようなBtoC(消費者向け)ビジネスはさらに落ち込みが激しい。売上高が損益分岐点(売上高=費用)を下回れば赤字に転落し、その損失がBSを毀損する。
 振り返れば、1991年のバブル崩壊と景気後退により、企業の売上高が激減した後に起こったのが不良債権処理だった。商社、小売り、建設など構造不況業種は、雇用・設備・債務の「三つの過剰」を抱え、大リストラと業界再編を迫られるという塗炭の苦しみをなめたのだ。7割経済の到来で、またその阿鼻地獄が待っている。
 この30年で構造改革に着手できなかった企業や業界は、「平成のレガシーコスト(負の遺産)」を一気に処理しなければならない。
 二つ目は、テクノロジーの革新的進化や、米中対立など地政学リスクの高まりにより、社会や業界のトレンドが激変するという現実だ。全業種でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速していることからも、既存ビジネスの激変は避けられない』

 実際、コロナ禍の「7割経済」は、企業にとって構造改革と戦略投資を行う機会にもなった。例えば、デジタルトランスフォーメーション(DX)は確実に加速した。コロナ禍ではリモートワークやオンラインサービスの需要が急増し、多くの企業がデジタル化を推進した。これにより、効率的な業務プロセスや新しいビジネスモデルを導入し、コスト削減やサービス向上を実現できた企業は多いだろう。

 また、コロナ禍で業績が低迷した事業から撤退して成長が見込まれる分野に資源を集中させたり、国際的なサプライチェーンの混乱を受け、国内生産や供給網の多元化を図った企業など、コロナ禍を通じて競争力を強化した企業も多く見られる。