【110】2022年
コスト上昇と配達員不足
「物流危機」にどう備えるか
「宅配クライシス」という言葉が世間を賑わせたのは2017年のことだった。背景には、ネット通販の急増による荷物量の爆発的な増加がある。宅配最大手のヤマト運輸が配送業務の過剰負担に耐えられず、荷物の総量規制、料金値上げ、配達時間の短縮といった対策に踏み切る事態となった。混乱の舞台は、ネット通販などの宅配サービスだけではなく、配送料の高騰や物流網の寸断といったかたちで産業界全体にも広がった。
当時も本誌は、2017年6月17日号「どうなる宅配便 ヤマト ホワイト改革の前途多難」、2018年5月26日号「物流クライシス」といった特集で大々的にこの問題を追いかけてきた。その後も危機の構造は変わらなかった。むしろコロナ禍によるロックダウンの“巣ごもり”で宅配需要は急増した。
そこに追い打ちをかけるように、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用され、労働時間が短くなることで輸送能力が不足する「物流2024年問題」がやってくる。2022年3月12日号では、そんな「物流危機」をテーマに取り上げている。
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危機は終わっていなかった。宅配のみならず業界全体が今、「物流クライシス」に襲われている。
インターネット通販などEC(電子商取引)からの荷物の数量は急カーブで増えている。
店舗販売などを含む全商取引のうちECが占める割合を示すEC化率は13年に4%弱だったのが、20年には8%にまで上昇。これに比例してBtoC(企業と消費者の取引)のEC市場はうなぎ上りで13年に6兆円弱だったものが20年に12兆円を超えて2倍に膨らんだ。
とりわけコロナ禍による巣ごもり需要によりネット通販の利用が急増し、30年の宅配取扱数は48億個超にもなった。しかもである。この集計には、アマゾンジャパンなどEC事業者が自前の物で配送したものは含まれていない。
表の数字に表れない“隠れ荷物”は「10億個、20億個あるのではないか」と業界関係者は言う。
荷物の激増に対して、それを届けるドライバーは今も足りない。しかもますます深刻化していく。
トラックドライバーの高齢化が進み、50代以上が46%を占めるまでになった。その上、「物流の2024年問題」が間近に控える。
2024年問題とは、働き方改革関連法によってトラックドライバーの労働時間に上限が設けられるというものだ。これによりドライバー1人の仕事量が制限されることになり、賃金が下がって離職する者も出てくるだろう。
つまりは、トラックドライバーは大量に不足する。その不足は、25年度に21万人、28年度に28万人に及ぶと鉄道貨物協会は試算している。
ドライバー社員の確保や定着は頭の痛い問題だ。セイノーホールディングスの中核会社である西濃運輸の高橋智専務は、「夜間に走るドライバーの負担を減らすために、輸送と荷役を分離して、荷役に関する労働時間の短縮にも取り組んでいる」と言う。
こうした策を講じなくてはならないものの、トラック運送のほとんどは中小零細企業であり、たやすくできるものではない。
物流全体が危機に陥り、物流コストは高騰していく。それは、まともな価格で物が運べなくなるということだ』
物流コストが上昇していく中で、自社の物流にどんな投資をしていくべきか否か、物流戦略は重要な経営課題となっている。国土交通省や経済産業省は2024年問題に向けて、物流資源を業界全体で共有し、デジタル技術をフル活用して、インターネット網のような最適な経路でつなぐ「フィジカルインターネット」という仕組みを構想しているが、まさに産業界を挙げて、今後の物流のあり方を考えていかなければならない局面である。