【109】2021年
成長戦略としての脱炭素
ビジネスを左右する「踏み絵」に

 菅義偉首相は2020年10月、国会での所信表明演説で、二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの国内排出量を2050年までに「実質ゼロ」とする方針を宣言した。同時に菅首相は、二酸化炭素の排出量を減らす“脱炭素化”を地球温暖化対策というコスト要因と捉えるのではなく、「経済と環境の好循環を生み出し、力強い成長を作り出していく」と、成長戦略の柱に位置づけることを強調した。

 2021年2月20日号の特集「脱炭素 完全バイブル」では、こうした世界的な脱炭素シフトによって、あらゆる企業がビジネスモデル転換を強いられている状況を伝えている。

2021年2月20日号「脱炭素 完全バイブル」2021年2月20日号「脱炭素 完全バイブル」
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『脱炭素をクリアできない企業は、ビジネス参加の入場券さえ得られない。
 ついに、環境負荷の低減が企業の経営課題の“本丸”として据えられる「脱炭素時代」が到来した。
 新型コロナウイルスの感染拡大後に、欧州で先行していたグリーンシフトが中国や米国などへ飛び火している。主要国はコロナショックで被った経済的打撃を「環境関連ビジネス」を柱とする経済成長でカバーしようと躍起になっているのだ。
 すでに、世界の環境関連投資は3000兆円を優に超えるとされており、資本市場は「グリーンバブル」の様相を呈している。主要国やグローバル企業は、脱炭素の新たな技術やビジネスモデルへ投融資を呼び込もうとしのぎを削っているのだ。
 そして――。世界の潮流から出遅れていた日本も、脱炭素へかじを切らざるを得なくなった。
 昨年末、菅政権は2050年にカーボンニュートラル(炭素中立。二酸化炭素〈CO2〉の排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすること)を実現する方針を表明。急転直下の脱炭素シフトにより、日本の産業界はてんやわんやの混乱に陥っている。
 電気自動車(EV)を主軸とする電動化シフトに遅れた自動車業界、製造業の中でも大量にCO2を排出する鉄鋼・化学業界、再エネの普及率が一向に上がらないエネルギー業界。日本企業は世界の潮流からはじき出されようとしており、グローバル競争では明らかに劣勢の状況にある。
 日本企業にとって厄介なのは、既存事業から「環境負荷の低減」を実現できる新規事業へと、一足飛びに事業の構造転換ができるわけではないことだ。例えば自動車業界でも、したたかな戦略を携えることなくガソリン車からの「EV100%化」を急げば、国内自動車メーカーの優位性は消え自動車業界は壊滅的な影響を受けてしまう。既存ビジネスの膿を出し構造改革を実行しながら、新たな商機を掴まなければならないのだ。
 政府がグリーン成長戦略の重要分野として選定したのは14業種。果たして、脱炭素と経済成長の二兎を追うことはできるだろうか』

 2021年11月に開催されたCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)では、日本をはじめ150カ国以上が年限付きのカーボンニュートラル目標を掲げた。世界中の企業が、脱炭素社会に向けた取り組みを加速させている。

 22年4月からは東証プライム市場の上場資格として、「気候変動リスクに関する情報開示」が必須となった。企業の競争力を測る物差しとして、「炭素」が重要な位置を占めるようになったのである。CO2を垂れ流す企業は、サプライチェーンから排除されかねない。脱炭素対応は、国際ビジネスに参加する入場券を得るための「踏み絵」となったと言っても過言ではない。