デザインと経営を、分かち難く一体化させる

デザインを売り込まない! 「周囲からのノック」を引き出すコミュニケーション──富士フイルム 執行役員・デザインセンター長・堀切和久氏インタビューPhoto by YUMIKO ASAKURA

勝沼 デザインへの投資を促そうとすると、経営層から「じゃあ、その貢献度を数値で示せ」と求められることはないですか。

堀切 それはないですね。デザインは本質的に製品からはがせないものだから。これまで国内外の多くのデザイン賞を頂きましたが、これも本来「製品賞」と呼ぶべきものです。製品が良くないのにデザインだけがいいってことはあり得ない。企画・設計とデザインは「骨と筋肉」みたいなもので、一体になっているからこそ脚や腕として機能します。それをわざわざ分解して「筋肉量を何%にすべき」なんて議論するのはナンセンスじゃないでしょうか。

勝沼 確かに。「開発の上流から関わる」って本来はそういうことですよね。しかし、まだ経営者との認識のズレで悩んでいるデザイナーは多いと思います。

堀切 僕は最近、当社社長(後藤禎一社長)の言葉に感動しました。これを見てください。社長がインタビューを受けたウェブ番組※です。記者からの「富士フイルムでデザインはどんな役割を担っているのか」という質問に、社長自身が「デザインがバリューを乗せたことで、会社のイメージや売り上げ・利益も“変わった”」とか、「彼らは顕在的な課題はもちろん、潜在的な課題を見つける。それを感性と一緒に立体的にダイナミックにデザインに落としていく」「チーフデザイナーは事業部長ができるほどの知識と実力がある」と、自分の言葉で語ってくれて、デザイン部門の士気も一気に上がりました。本当にうれしかったですね。

勝沼 これはしびれますね。特に売り上げや利益が「増加した」ではなく「変わった」というところ。経営トップがここまでデザインの価値を理解して、自分の言葉で語っているのは本当にすごい。長年にわたるコミュニケーションがあればこそですね。

堀切 僕は執行役員として全社戦略を知ることのできる立場にあるし、現場ではデザインセンター長としてデザイナーたちの「可視化力」「提案力」、それを支える「観察力」を日々目の当たりにしています。両者をさまざまな形で結び合わせるのが僕の仕事だし、自分にとってのデザイン経営だと思っています。

※NewsPicks『デューデリだん!/なぜ富士フイルムは、カリスマ不在でも強いのか』(24年12月14日公開分)