ビールを作る会社として、社内で懸念の声はなかったのだろうか。

「仮に一時的に売り上げが落ちたとしても、誰もやっていないこと、飲み手が喜ぶことを優先するのが当社のスタイルなので、迷いはありませんでした。当社の理念は『ビールに味を!人生に幸せを!』。ビールを飲んで幸せになってもらうのに、量は関係ありません。このグラスで笑いながら適正飲酒を心がけ、健康を保ちながらビールを飲み、人生を豊かにしてほしいですね」(井手氏)

 適正飲酒と言えば、同社ではアルコール度数0.7%の微アルコールのクラフトビール「正気のサタン」も販売している。時代の流れも伴って、売り上げは右肩上がりだという。

「じわじわと正気のサタンの人気が上がっているのを肌で感じます。この製品を出すきっかけは、僕がおいしいと思える微アルコールビールがなかったから。各国の微アルコールビールを取り寄せ、テイスティングしたり、成分分析をしたりして、試行錯誤しながら開発し、企画から約2年で製品化しました。名前の由来は、微アルコールだからある程度飲んでも正気(しらふ)でいられるということ。そしてサタンは病みつきになるという意味を含んでいて、かつ『正気の沙汰』の語呂合わせでもあります」(井手氏)

 微アルコールビールは、わずかにアルコールが入っていることで、ノンアルコールビールより飲み応えがあるし、(個人差はあるが)ほろ酔いにもなれる。筆者も、翌日に早朝から仕事があるときは、これを選んで飲んでいる。

ワイン、日本酒、カクテル…
世界的に広がる“微アル”

 微アルコールやノンアルコールの飲料のニーズが年々高くなっているのは世界的な現象だ。世界の飲料市場のデータを提供するIWSRによると、2022年にノンアルコールまたは低アルコール飲料の販売量は7%以上増加し、市場規模は110億ドルを突破したという(2018年は80億ドル)。