テクノ封建制の基盤にある
テクノロジーによる恐怖政治

 ブカラパック(編集部注/インドネシアのクラウド企業)は多様なローカル商店をクラウドにアップロードするだけでなく、利子の高いマイクロクレジットや高額なデジタル送金、基本的な銀行サービスを通じて、ワルン(編集部注/インドネシアの食堂や小さな売店)に頼る地元のコミュニティを金融化しようとしている。

 めざといジェフ・ベゾスもインドネシアに調査団を派遣して、2021年にブカラパックのライバル会社に投資しはじめた。ペイパルの共同創業者でフェイスブックの初期の投資家であり、パランティアの生みの親でもあるピーター・ティールも、自身が持つバラー・ベンチャーズを通して同じことを行っている。中国最大級のテック・コングロマリットであるテンセントも右にならった。

 アメリカ中西部の工場主から最新の詩集を売ろうともがく詩人まで、ロンドンのウーバー・ドライバーからインドネシアの露天商まで、あらゆる人がクラウド封土に頼らなければ顧客とつながることができなくなった。それはある種の進歩とも言える。かつて封建領主が地代を徴収するために暴漢を雇って封臣の膝を折ったり、血を流させたりした時代は終わった。

 クラウド領主は地上げ屋を雇わなくても没収や立ち退きを強制できる。クラウド封臣のサイトへつながるリンクを外すだけで、顧客にアクセスできなくなるからだ。グーグルの検索エンジンやEコマースやソーシャルメディアのサイトからリンクのひとつやふたつを削除すれば、オンラインの世界からまとめて消滅させることもできる。洗練されたテクノロジーによる恐怖政治が、テクノ封建制の基盤にはある。

 全体を俯瞰すれば、世界経済を回しているのが利潤ではなくクラウド・レントになりつつあるのは明らかだ。そこに私たちの時代の面白い矛盾が見えてくる。資本家の活動は積極的な資本蓄積のプロセスの中で広がっていく。だが、その同じプロセスが資本家の利潤を損ない、資本主義市場をクラウド封土に置き換えている。要するに、資本家の活発な活動が結果的に資本主義の衰退につながっているのだ。資本家の活動を通してテクノ封建制が生まれ、それが支配的な力になりつつある。むしろ、それが当然の帰結なのかもしれない。