原田 1970年代にテーマになっていたことが、今あらためてソーシャルメディアの普及で顕在化しちゃっているんですね。それこそ、離れた場所にいても、Facebookの投稿から空気を読んで、適切な書き込みをしなきゃいけないわけですし、人間関係も昔に比べて何十、何百倍も広がりました。
哲学者。1956年京都生まれ、京都在住。高校生の頃から哲学を志し、大学進学後は先生の自宅にたびたび押しかけては議論をふっかける。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの「青年」のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。訳書にアルフレッド・アドラーの『個人心理学講義』『人はなぜ神経症になるのか』、著書に『アドラー心理学入門』など多数。『嫌われる勇気』では原案を担当。
岸見 ソーシャルメディアでの関係構築にしろなんにしろ、若者たち自身が「今のあり方とは違うあり方が存在する」ということを知らなければ、自己変革のしようがありません。
本当におもしろい投稿のときだけ「いいね」を押せばいいし、自分の投稿に「いいね」がつかなくても、実はまったく気にすることなんてない。そんなあたりまえの価値観が、この世の中には存在しうるんだということに気づかなければ、変わることはできません。
若者たちの理想は「嵐」?
原田 最近、テレビ番組で嵐の櫻井翔さんとご一緒したんですよ。彼は僕と同じ慶應大学の5つ下の後輩なので、その点について番組内で絡んだら、大量の嵐ファンの皆さん、どうやら嵐が病気になるくらい好き、という意味でアラシックと呼ばれているようなのですが、その方たちが僕のTwitterアカウントをフォローしてくれまして……(笑)。
岸見 いいですね。
原田 彼女たちとやりとりしていて、最近の若い子が理想とする人間関係って、嵐のメンバーが体現しているんじゃないかな、と思ったんですよ。メンバーのそれぞれが、役者やニュースキャスターといった得意分野を持っていて、ひとりひとりが独立していているけど、集まると仲がいい。そして重要なのが、リーダーがいないということです。いちおう大野さんがリーダーいうことになっていますけど、強権的にふるまっているわけではありませんからね。
岸見 それはおもしろい見方ですね。僕が思うのは、もし人間の意識や価値観が変わるとすれば、今の若者世代のほうが、上の世代に比べてきっと早いはずだということです。
原田 と言いますと?
岸見 先日、ある女子学生が講義の後に、慣れない敬語を使って僕に質問してきました。そうしたら、その様子を見ていた彼女の友人が、「言葉遣いには気をつけなあかん」と注意したんですね。僕はその発言が何を意味するのか、よくわからなかったのですが、友人の意図を理解した彼女は、突然タメ口で話し始めました。