原田 敬語をちゃんとするんじゃなくて、タメ口とは(笑)。そういえば、残存ヤンキー集団のリーダーである僕の同級生も、20代の後輩たちが、先輩である自分に対してときどきタメ口になることを嘆いていましたよ。
岸見 タメ口なんて、僕の学生時代にはありえなかったのですが、今の若者は目上の人に対して敬語を使うことに、固執していないようです。つまり何が言いたいかというと、もし彼らが今の自分の生き方の不自由さに気がつけば――この場合は「慣れない敬語を使う」ということですが――価値観を変えること自体は早いということです。上の世代の人は、不自由であることがわかっていても、容易には変えられません。変える勇気がないのです。
原田 なるほど。そういう意味では、彼らはあっという間に上の世代が眉をひそめるような価値観に変わることができる可能性を秘めていると言えますね。
「縦社会」が崩壊するのは
悪いことではない
原田 岸見先生は、ソーシャルメディアでも学生さんとつながっているんですか?
岸見 講義の後に、Facebookで友達申請してくださいと言うと、かなりの数の学生が申請してきます。社会人の娘にそういう話をすると、「そんなの絶対、ありえへん」と驚きますが。
原田 たしかに、一昔前に「大学の先生と友達」という発想はなかったですね。
岸見 友達になるということは、僕が学生たちの日常生活も知りうるということですが、それでもかまわないみたいです。場合によっては、「先生、家に遊びに行ってもいいですか」などと言われます。僕が若い頃は、先生の家を訪問することは一大事件だったんですけどね(笑)。とにかく、若い人が年齢差をものともせず、対人間としてぶつかってきているというのは、最近すごく感じるところです。
原田 かつての若者は縦の関係にとらわれていましたけど、そのお話を聞くと、そっちはあまり深刻ではなさそうですね。
岸見 彼らが社会の中核になり、会社内で役職に就いたとき、長らく続いてきた縦社会が崩れていく気がします。「上から押さえつけるような年長者はKY」が常識化すれば、今までとは違うかたち、違うあり方で上司と部下との関係が築けるのではないでしょうか。
原田 たしかに、彼らは縦にはとらわれていませんからね。