企業の「中の人」が仕事の合間にツイッターやフェイスブックに投稿するなど、涙ぐましい努力でソーシャルメディアを自社のマーケティングに活用しようとしている企業は多い。
しかし、ネット上のマナーを知らずに“地雷”を踏んでブランドにダメージを与えてしまったり、たとえ「心あたたまる関係」が築けたとしてもコストに見合うリターンを得られなかったりと、企業のソーシャルメディア活用は思うように進んでいないのが現状だ(前回のコラム参照)。
そんななかで、ソーシャルメディアを活用することに成功している企業もたしかに存在する。今回のコラムでは、そんな成功事例から「活性する企業コミュニティ作り」のポイントを学んでいこう。

【第1回】「ソーシャルメディアは死んだ」と言われる日は近い…?」から読む
【第2回】「ソーシャルメディアとサクラの微妙な関係」から読む

【第3回】「「2ちゃんねる」は永遠に不滅?!」から読む
【第4回】「ソーシャルメディアが浮き彫りにする個人の孤独」から読む
【第5回】「ソーシャルメディアが無縁社会を生み出す?」から読む
【第6回】「ザッカーバーグに異議あり! フェイスブックが掲げる「実名主義」では社会は幸せになれない」から読む
【第7回】「企業のソーシャルメディア活用の天国と地獄」から読む

最初からピカピカでなくていい。
“掘っ立て小屋”をみんなで磨き上げていくプロセスこそがカギ

武田隆(たけだ・たかし)エイベック研究所 代表取締役。日本大学芸術学部にてメディア美学者 武邑光裕に師事。「日本の伝統芸術とマルチメディアの融合」を学ぶ。1996年、学生ベンチャーとして起業。企業のウェブサイト構築のコンサルテーションを足掛かりに事業を拡大し、多数の受賞を得るも、企業と顧客の距離が縮まらないインターネットサービスの限界に悩む。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「企業コミュニティ」の理論と手法を独自開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社にシステムを導入。当ドメインでは日本最大。コミュニティには60万人を超える消費者が集まる。1974年1月生まれ。海浜幕張出身。

 企業の存在はソーシャルメディアの抱える問題を解消する可能性があります。

 ソーシャルメディアを通して個人が社会に対して発言する際、企業はその橋渡しの役割を担えるかもしれない。なぜなら、企業は社会に向けて商品やサービスを提供する活動体であり、その組織の力は個人ひとりのエネルギーとは比較にならないほどの大きさを持っているからです。

 では、企業コミュニティを活性させるためには、どうしたらよいのでしょうか?

 2010年、当時早稲田大学野球部の投手だった斎藤佑樹が6大学リーグ戦で優勝を飾った際、「(自分は)何かを持っているといわれつづけてきたが、今日、何を持っているかがわかった。それは仲間です」とスピーチして拍手を集めましたが、これに限らずスポ根ドラマの物語は、仲間と団結してだんだんチームが強くなっていくプロセスが感動を呼ぶものと、昔から相場が決まっています。

 企業コミュニティにもこれと似たところがあって、一緒につくる一体感が参加者の絆を深めていきます。どうやら、成長のプロセスをともにしたとき、人はそこに物語を感じてしまうもののようです。

 掘っ立て小屋のようだったコミュニティが自分の関与によって成長していくというプロセスが感動を生む。コミュニティは初めからピカピカで完璧なものよりも、だんだんとよくなっていくもののほうが盛り上がるようです。

「拙(つたな)いもてなししかできませんが、どうぞくつろいでください」という侘びた態度でよい。よいどころか、むしろそのようなオープンな態度こそが評価を得ます。参加者はしだいに形になっていく企業コミュニティに対して、愛着を持つようになります。ボロからつくり、成長させていく。そこに物語が生まれるのです。