興味深いのが、現在、民主党の指名候補争いでトップを走る、バイデン前副大統領との対比である。バイデン氏は、「米国が中国に負けるとは、ばかばかしいにもほどがある。中国は米国と競争しているわけではない」などと、中国への懸念を軽視するかのような発言を行い、民主党内からも批判を受けている。これに対してトランプ大統領は、「中国が態度を硬化させたのは、(大統領選挙の結果)バイデン氏や弱腰な民主党(大統領)と交渉できるようになる展開を、心の底から期待しているからだ」とツィートしている。
選挙への計算は中国次第
米中「阿吽の呼吸」の行方
もちろん、大統領選挙に向けた計算が、いつまでも対中摩擦を後押しするとは限らない。経済への影響が深刻になれば、米中摩擦を落ち着かせる重要性は高まる。トランプ大統領は、「交渉の好調さをツイートしさえすれば、株式市場は落ち着く」と自信を示していると報じられているが、いつまでもツィートだけで市場が納得するとは限らない。
就任以来の株価の変動を比較すると、現時点までのトランプ大統領の株価は、再選を果たしたクリントン大統領と、短命に終わったブッシュ(父)大統領との分岐点に位置している(図)。投票日が近付くに連れて、公約の成果を示せるようなディールが欲しくなるはずだ。それでなくても、先行きへの不安が高まっている現状に鑑みれば、交渉を妥結に導きさえすれば、安心感から株価の急伸が期待できる。
もっとも、対中摩擦が米国経済に与える負の影響が顕在化し、大統領選挙への計算が変わったとしても、トランプ大統領の一存で米中摩擦を解消できるわけではない。気をつける必要があるのは、どこまで中国側が歩調を合わせられるかだ。交渉での敗北を印象づけられてしまうようであれば、トランプ大統領の計算は合わないままになりかねない。米中のあいだに、必ずしも「阿吽の呼吸」が成り立たないことは、今回の関税引き上げに至る過程で明らかだ。
「米国を再び偉大にする」(Make America Great Again)を掲げて当選したトランプ大統領は、好調な経済を背景に、「米国を偉大なままにする」(Keep America Great)を新たなスローガンとして、2020年の大統領選挙を戦う意向だといわれてきた。米中交渉がまとまらず、景気が失速した場合には、「偉大なままであることを邪魔したのは中国だ」との主張に切り替え、民主党と競い合うように対中強硬路線に突き進む展開が懸念される。