技術覇権をめぐる争いなど、対中懸念の潮流の根深さを考えれば、近い将来、米中関係が抜本的に好転すると考えるのは楽観的に過ぎる。しかし、大統領選挙への計算次第では、一時的にせよ、米中摩擦の深刻化が小休止する展開が想定できる。

攻めあぐねる民主党
トランプとの差別化は困難

 もっとも、大統領選挙への計算が、摩擦を引き延ばす要因にもなり得る諸刃の剣であることは見逃せない。今回の関税引き上げに関しては、信念と潮流だけではなく大統領選挙への計算までもが、2つの点で摩擦の再燃を後押しする結果となった。

 第一に、中国側の変化が大統領選挙への計算を狂わせた。今回の関税引き上げは、トランプ大統領の変心というよりは、中国側がそれまでの合意事項を大幅に後退させたことが引き金になったとされる。再選を目指す以上、トランプ大統領はこれまで掲げてきた公約に関する成果を示す必要がある。あまりに米国の譲歩が大きければ、もはや成果とはいえなくなってしまう。中国側の豹変は、大統領選挙への計算が成り立たなくなるほど大きかったようだ。

 第二に、大統領選挙で対決する民主党との対比で考えた場合に、対中強硬姿勢が得策に映った可能性がある。トランプ大統領は、ぶれずに中国に厳しく譲歩を迫り続けることで、民主党との違いを際立たせられる状況にあるからだ。

 こと対中政策に関しては、民主党はトランプ大統領を攻めあぐねている。本来、民主党は保護主義的な政党だが、単に対中強硬策を展開するだけでは、トランプ大統領と差別化できない。かといって、TPPのように対中政策での国際協調を呼びかけようにも、前回の大統領選挙で民主党のヒラリー・クリントン候補までもがTPPを批判していた経緯があり、いまひとつ説得力に欠ける。

 攻め手に欠ける民主党の悩みを象徴するように、各候補の意見は分かれている。中国の問題に焦点が当たるほど、トランプ大統領の首尾一貫さが浮かび上がりやすいのが現状である。

 バイデン前副大統領が対中穏健派の筆頭と目されている一方で、ウォーレン上院議員やサンダース上院議員などは、トランプ大統領と競い合うほど激烈な中国批判を繰り広げている。そうかと思えば、カリフォルニア州選出のハリス上院議員のように、地元に輸出産業を多く抱える場合には、中国の台頭に懸念は示すものの関税の掛け合いには否定的であるなど、強弱のバランスに腐心している。