第二の原動力は、米国における中国への警戒の高まりだ。第一の原動力がトランプ大統領を対中摩擦に踏み出させたとすれば、こうした米国の「潮流」は摩擦の長期化を促す風となる。
近年の米国では、中国の台頭への警戒感が高まってきた。民主党系のシンクタンクであるアメリカ進歩センターが2019年2月から3月にかけて行った世論調査では、回答者の6割近くが中国を「競争相手」とみなしている。その注目度の高さは、2位となった日本の約2倍に達する。
共和党議員による関税批判が高まらない背景には、こうした対中懸念の潮流があるようだ。「POLITICO」によれば、確かに地元の痛みは心配だが、「もしも通商政策で戦うのであれば、その相手となるべきは中国だ」(共和党のブラント上院議員)というのが、現時点での共和党議員の大勢である。鉄鋼・アルミ関税の方が批判されやすいのも、これらの措置が中国以外にも適用されている点に着目すれば納得がいく。共和党の議員の間には、米中摩擦の長期化に対する不安が高まりつつあるが、現時点では大きな流れにはなり切っていない。
経済の失速を嫌う
大統領選挙への計算
大統領の信念が米中摩擦を顕在化させ、米国の潮流がその長期化を後押しする。この2つの原動力だけであれば、米中摩擦を止める力は少なくとも米国内からは生まれ難い。しかし対中摩擦の背後には、もう1つの原動力がある。来年の大統領選挙への計算である。
大統領選挙への計算は、摩擦を鎮める要素になり得る。トランプ大統領が再選を目指すに当たって、最も重要なのが経済成長の維持だからである。一期限りの大統領が「短命」と呼ばれるように、米国の大統領選挙は圧倒的に現職が有利である。カーター大統領やブッシュ(父)大統領のように、例外的に再選を果たせなかった大統領は、経済運営に対する有権者の失望が大きかった場合がほとんどだ。
いくら「信念」と「潮流」があっても、再選を妨げるほどの経済の失速を招くようであれば、トランプ大統領が対中摩擦を深追いするのは難しい。実際に、トランプ大統領が対中姿勢を明らかに緩和させたのは、年末年始の株安の後だった。関税引き上げへと事態が急変するまで米中合意への期待が高かったのも、「大統領選挙への計算から、トランプ大統領は対立を避けるだろう」という読みがあったからだ。