政府要人だけに伝えられた航空業界の「2.5兆円の支援パッケージ」。巨額の要望は業界が未曾有の危機にあることを物語っていた。特集『日本企業 緊急事態宣言』の#8では、ANAと日本航空(JAL)の資金繰りに迫るとともに、かつて浮上した「ANA・JAL統合案」の温度感を伝える。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)
融資や政府保証で2兆円
税減免など5000億円を求めた
ここに「2.5兆円の支援パッケージ」と記された一枚のペーパーがある。国内航空会社が加盟する定期航空協会の上層部は「新型コロナウイルスの感染拡大における航空業界支援に関する要望」と題したこのペーパーを携え、3月末から4月頭にかけて政府要人へ陳情に回った。要人だけに伝えられた“巨額の要望”は、業界が未曾有の危機にあることを物語っていた。
同協会は3月中旬、官邸によるヒアリングですでに要望を伝えている。そこでは、空港使用料や税の支払い猶予、減免などとともに、「政府保証(低利・無担保)付き融資」 を求めた。「政府保証」というのは、融資の元本や利子の返済が困難になった場合に、国が肩代わりすることを保証するもので、極めて異例の内容だ。
にもかかわらず、この文言を入れたのは、LCC(格安航空会社)は航空機を自前で持たずにリースしているところが多く、融資の担保になる資産が少ない。それでも融資を受けられる環境を整備してほしいという意図だったはずだ。
しかし、2.5兆円の支援パッケージで求めた政府保証は趣旨が違っていた。資産を持つ持たないにかかわらず、業界の航空会社全て助けてほしいというものだった。
官邸ヒアリングの際、同協会の要望は国内業界で「当面4カ月で約4000億円以上、年間では1兆円規模の減収」という見込みを前提にした。この前提はすぐに崩壊した。欧米にもコロナの感染が広がって減収額は2倍、つまり1年で2兆円規模になると業界首脳が口にするようになったのだ。
2.5兆円の支援パッケージの項目そのものは、官邸ヒアリングでの要望を踏襲している。しかし、要望の内容はより具体的、かつ2兆円減収の危機を反映した。
パッケージの冒頭にくるのが「政府系金融機関による融資や政府保証等(2兆円)」である。コロナ危機の影響が1年レベルで長期化することを想定し、2兆円規模の融資枠を確保したいというものだ。融資手続きを迅速化することと、15~20年の超長期、無担保の融資も求めている。
これに続いて「最低1年間の公租公課の支払い猶予、減免措置ならびに感染症水際対策に伴い生じた損失、追加費用への給付金等」として5000億円の支援を求めた。 このほか、雇用調整助成金の上限額(8330円)を撤廃して最低でも2倍へ引き上げる要望なども盛り込まれた。
より強力な支援を求める動きは、財務省などの現場の官僚から不評を買った。陳情で先頭に立つのは会長会社であり、国内航空最大手であるANA。ANAは協会だけの活動では足りないからと、個社でも陳情に回った。ANAによる大プッシュに、一部の官僚が「支援は中小企業が先。大企業は利益をためてきただろう」と不快感を示したのである。
もっとも、航空業界では企業の大小を問わず、未曽有の危機に直面しているのは事実。ANAがヘイトを買いながら業界の陳情で矢面に立つのは、ほかでもない自らが危うい局面にあるというのが大きいだろう。国内2強であるANAと日本航空(JAL)はいずれも国際線と国内線の割合が半々であり、国際線壊滅の影響をもろに受ける。
では、両社の運転資金はどれくらい持ちこたえられるのか。