新型コロナウイルスに
日本の「前例主義」は通用しない

 新型コロナウイルスの感染防止対策は、清潔好きで衛生環境が良く、高い協調性を備えた日本人には有利と考えられています。実際、法的な強制力がないにもかかわらず、ここまでなんとか感染爆発を抑えられているのは、この日本人の特性が大きいといえるでしょう。

 ところが、日本の組織は、先に述べたように、官僚組織を筆頭に、前例主義、無謬主義、そして責任回避バイアスが強いことから、状況の変化に合わせて機能する方法に迅速に切り替えることが苦手なのです。

 たとえば、西村康稔経済再生相は、4月13日の参院決算委員会で、「諸外国の例を見ても、事業者に対する休業補償はやっている例が見当たらない」と述べました。また、「諸外国でも見当たらず、我々としてやる考えは採っていない」とも発言。このことから、前例主義を根拠として休業補償をしないという議論を展開していたことがわかります(本当は海外にいくらでも前例もあったのですが)。

 ここでの論点は、「前例がない」と言われると「それなら仕方がないか」と納得してしまう、日本人の前例主義バイアスが問題だということです。だからこそ、政府は前例がないということを説得のための論拠として言い出すのです。

 しかし実際は、各国とも前例のない未曽有の事態に対して、前例のない施策を繰り出しているのですから、前例がないことは、日本が抜本的な施策をやらない根拠にはなり得ません。

 新型コロナウイルスからすれば、こうした日本の「前例」にとらわれることで、迅速に思いきった施策を打ち出せない姿勢は、新型コロナウイルスに対する日本の「大きな弱点」となっています。日本の組織が得意とする手続主義、前例主義、忖度主義、形式主義が最も通用しない相手が、新型コロナウイルスという事象なのです。