新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから首相の安倍晋三の記者会見は8回行われている。ただし、その会見ではほとんどサプライズがなかった。5月25日の会見も緊急事態宣言の発令を解除するという重要な節目だったが、事前に内容が報道されており、新味を欠いた。
インパクトに欠けるのは、安倍会見がパターン化、形式化しているためだろう。4月7日の緊急事態宣言を発令したときの会見を除き、他の7回全ての開始時間が午後6時。NHKだけでなく民放もニュース番組の枠内で生中継する。感染症問題への国民の関心の高さも反映して視聴率も跳ね上がる。
テレビ中継が始まると会場中央の演台前に立て掛けられた二つのプロンプター(原稿読み取り機)が目に飛び込んでくる。安倍にとって今やプロンプターはなくてはならない“アシスタント”といっていい。日本の首相としてプロンプターを初めて使った細川護熙はその理由をこう語っていた。
「国民に向け、真正面を向いたまま語り掛けたい」
しかし、手元の原稿に頼らずに話すことで率直な物言いが“売り”だった細川の良さが逆に減殺された。安倍会見はまずプロンプターを使った冒頭発言から始まる。おそらく秘書官らの手によるものと思われる用意された原稿を延々と読み上げる。ほぼ20分から30分は安倍の“演説”が続く。ちなみに25日の会見では23分間が安倍の冒頭発言に充てられた。