バウハウスの教育カリキュラムのポイント
「予備過程」とは?
バウハウスの教育カリキュラムを示した有名な円形の図がある。外側の「VORLEHRE(予備課程)」から出発し、内側に向かって3段階の教育課程を経て、中心に位置する「BAU(建築)」へと最終的に向かう。
1つめの「予備課程」と呼ばれる6カ月間の基礎教育では、学生たちが持っている既成概念や先入観を払拭し、個々人の創造性や想像力を導き出すためのカリキュラムが用意された。2つめの工房教育では、準備過程として素材の構造や性質、形態を把握するための訓練が行われた。その後、学生は希望する工房を選び、ドイツの伝統的なマイスター制度に倣ってマイスター(親方)と呼ばれる教師に付いて学ぶ。3つめの建築教育では、実際の建築現場での実地教育を行う。
しかしこれはあくまで1922年時点のものである。実際は各教師が試行錯誤しながらカリキュラムは常にアップデートされた。時代や社会情勢によって学校の体系は変化し、教育内容も多様であったため、「これがバウハウスの教育だ」と一言で語ることはできない。そこがバウハウスの教育システムを語る上で難しい部分でもあり、抽象化して応用する余地ができた部分でもある。
だが一貫した哲学はあった。それは「機能美」を求めていたことである。素材を見つめ、徹底的に科学し、理解する。そして素材そのものが持っている本来の力を引き出すためにデザインする。素材を生かすということは、おのずと「装飾」は不要となりデザインはシンプルなものとなる。「形態は機能に従う」という言葉があるが、バウハウスはこれを真摯に追求した。
たとえば世界で初めてスチールパイプを家具に使った「ワシリーチェア」は、その登場以降、スチールパイプを使った2本脚の椅子が社会に普及していった。今では企業や学校など、いたるところで見られる。ガラスという素材を大胆に生かした建築や、メタルのしなやかな曲線を生かした食器が世界中に広がったのも、バウハウスの誕生と無縁ではない。広告や雑誌デザインといった、伝達技術をブラッシュアップするための「グラフィックデザイン」の概念も世界に知らしめた(これは米国で広告と雑誌の黄金時代が築かれるきっかけの一つとなった)。