民間企業などに勤める組織内弁護士といえば、かつては「格下」の弁護士と見られたものだ。法科大学院制度の導入による「弁護士過剰問題」のあおりを受け、就職先に困った者がなるものだというイメージが張り付いていたからだ。だが時代は変わり、「格下」のレッテルは剥がされた。特集『弁護士 司法書士 社労士 序列激変』(全19回)の#9では、組織内弁護士の地位をアップさせた三つの追い風を探る。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
ヤフーが弁護士を
毎年5~6人も取り込む理由
「今や司法試験の成績がトップクラスだった弁護士も入社してきている」
日本の民間企業で最も多い39人(2020年6月現在。日本組織内弁護士協会のデータより)のインハウスローヤーを抱えるヤフー。その政策企画本部長である吉田奨氏は、そう手応えを語る。
インハウスローヤーとは、法律事務所に所属するのではなく、企業の社員として、あるいは官庁や自治体の職員として働く弁護士のことだ。前者を企業内弁護士、後者を行政庁内弁護士と呼ぶ。
インハウスローヤーといえば、一昔前は法曹界で「格下」と捉えられた存在だった。背景には「弁護士過剰問題」がある。
司法制度改革の一環で2006年に新司法試験が導入され、新人弁護士が大量輩出されたことで、弁護士は供給過多になった。困った弁護士たちは企業や自治体に就職先を求めることになったのだが、その過程でインハウスローヤーには、「過当競争に敗北した弁護士がなるもの」というイメージが付きまとった。
五大法律事務所の入所組は、「スター弁護士」を含むパートナーの下で仕事をこなし、入所1年目で年収1200万円を手にしている(本特集#3『「1年目で年収1200万円」の5大法律事務所、それでも弁護士が続々辞める理由』参照)。そうした王道を行く弁護士に比べると、経験や収入面で劣ると見なされたことも一因だろう。
いずれにせよ司法制度改革で大量供給された弁護士の受け皿として、インハウスローヤーが増加したのは間違いない。実際、ヤフーはこの流れを利用して弁護士を一気に取り込んでいった。
「弁護士は、よく勉強しているので社会人としての立ち上がりが速い。また、努力にも慣れているので成長のポテンシャルも大きい。2~3年前まで法務部と政策企画部は弁護士しか採用していなかったくらいで、今も両部で毎年5~6人は採っている」(吉田氏)
時代は変わった。吉田氏が語ったように、インハウスローヤーの業界内地位は向上し、今では「格下」のレッテルは剥がされている。
「単純に仕事内容が面白そうだったから入社した。そもそも、就職先として法律事務所と企業を分けて考えていたわけではない」。司法修習からヤフーに“新卒”で入った入社6年目の畠山寛希氏(政策企画部マネージャー)の言葉からも、その変化が見て取れる。
インハウスローヤーの業界内地位はなぜ向上したのか。その背景には、三つの追い風がある。