国際物流DHLを傘下に入れたドイツポストを見習え――。2015年に、日本郵政が豪トール・ホールディングスを鳴り物入りで買収した。だがその後、4003億円の減損損失を迫られるなど一度も業績が浮上することなく、一部事業を売却する悲惨な末路を迎えることになった。特集『郵政消滅』(全15回)の#2では、買収失敗の裏にあるずさんな「投資計画」の実態に迫った。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
物流M&A業界における郵政の評価はガタ落ち
素人集団による「トール買収」の悲劇
さかのぼること7年前、2014年春のことだ。東芝社長や東京証券取引所グループ会長を歴任し、日本郵政社長の座にあった西室泰三氏(故人)は、焦燥感をあらわにしていた。
日本郵政グループ(日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の3社)の株式上場が翌15年に迫っており、上場後の株価上昇の目玉対策を血眼になって探していたのだ。
ゆうちょ銀行とかんぽ生命の金融2社の成長戦略は描けるものの、祖業の郵便事業(日本郵便)については、すでにハガキや信書といった“ドル箱”収入が激減。日本郵便がジリ貧では日本郵政グループの将来像が描けない――。お先真っ暗の状況だった。
そこで、西室氏ら時の経営陣は計略を巡らせた。「大型M&A(企業の合併・買収)」を日本郵便の“てこ入れ”の起爆剤にしようとしたのだ。お手本として想定していたのが、同じく民営化の道を歩んだドイツポストである。国際宅配会社の米DHLなどの企業買収を重ねることで成長戦略を描いていた。
「海外の物流会社を買収せよ」。西室氏による大号令が飛んだ。複数のルートで買収案件が検討され、米国や欧州の物流会社が候補として挙げられたこともあった。海外案件ではないが「日立製作所傘下の日立物流の買収も検討した」(日本郵便関係者)こともあったという。
急転直下、豪物流会社トール・ホールディングスの身売り案件が持ち込まれたのは、14年秋のことだった。西室氏、高橋亨・日本郵便社長(当時。77年旧郵政省入省)、諫山親・日本郵便専務執行役員(当時。旧郵政省82年入省)など、ごく限られた幹部と実務メンバーで買収準備がひっそりと進められたという。
それからわずか数カ月。15年2月18日、日本郵政がトールの買収を発表。高橋社長はオーストラリアの現地へ飛び、トール社幹部と共に華々しい会見に臨んだ。買収金額は実に6200億円に上り、社運を懸けた一手であることは疑いようがなかった。
しかし、これが悲劇の始まりとなった。結論から言えば、この巨額買収は大失敗に終わった。当時を知る日本郵政関係者の証言からは、あまりにもずさんな「デューデリジェンス(資産評価)」「投資計画」の下で進められた買収であることが明らかになりつつある。
なぜ、日本郵政の経営陣は拙速な巨額買収に突き進んでしまったのか。そして、舞台裏では何が起こっていたのか。