「まあまあ優秀な人」と「ズバ抜けて優秀な人」の根本的な違い

ジェフ・ベゾス自身の言葉による初めての本『Invent & Wander』が刊行された。100万部ベストセラー『スティーブ・ジョブズ』などで知られるウォルター・アイザックソンが序文を書き、翻訳も100万部超『FACTFULNESS』などの関美和氏が務める大型話題作だ。
アマゾンはサイトとしてだけでなく、キンドル、プライム・ビデオ、AWSなど、わずか20年少しの間に革命的なヒットサービスを次々と生み出し、世界のあり方を大きく変えた。そんなベゾスの考え方、行動原則とは? 自身もベンチャーキャピタル事業で活躍する関美和氏に、話題の『Invent & Wander』について詳しく聞いた(構成:イイダテツヤ、撮影:疋田千里)。

会社には「高い基準を求める文化」が必要

──ジェフ・ベゾスが会社に対してどんな考えを持っているのかは非常に興味深いところです。端的に言って「会社が成長するためには、何が必要だと」彼は語っているのでしょうか。

関美和(以下、関):何よりもベゾスは、組織のなかで「高い基準を求めること」、そしてそういった姿勢が社内に広く浸透していることの重要性を語っています。

 一言で「高い基準」と言ってもベゾス特有の考えがあって、まず一つは「高い基準とは教えられるもの」だと彼は考えています。

 たとえば、バスケットボールチームに入ったら、教わってできるようになることもたくさんあるでしょうけど、背の高さはどうにもならないですよね。

 誰かに教えられて、身長を伸ばすことはできません。もともとの運動神経とか、芸術的センスも同様です。

 こうした「生まれつきの、どうにもならないもの」ではなく、あくまでも「教えられるもの」。そういったものにおいて、ベゾスは「高い基準を求める」ことが大事だと語っています。

 そうした領域で「高い基準」を持った人が組織にいると、他の人にも感染していく。そんな考えをベゾスは持っています。

ズバ抜けて優秀な人は「盲点」を意識している

 さらにもう一つ、私がおもしろいと思ったのは、高い基準を持っている人は全方位的に高い基準を持っているかと言えば、そうではない、という点です。

──それはどういうことですか?

:たとえば、ベゾス自身は「お客様に対して最高のサービスを提供する」という部分においては、創業当時からとても高い基準を持っていました。

 でも、「オペレーション」のプロセスに関しては、それほど高い基準を持っていなかった、と語っています。ベゾスにも盲点があったんです。

 ベゾス自身が「高い基準」を持っている部分もあれば、ベゾス以外の人が「高い基準」を持っている分野もあって、いずれにしても、それらは「お互いに教えられるもの」であって、組織全体に伝播していく。

 そんな組織をベゾスは目指しているのだと感じます。

──本書の中でベゾスは、「自分は人より基準が高いと思っていても、まったく見えていない弱点がある」と語っていますね。

:どんなに優秀な人でも必ず盲点があるんです。そんな盲点の存在を意識できていることが本当に優秀であるためには大事なんだと思います。

 アマゾン創業当時のエピソードなんですが、そのころは注文が入ると、ベゾス自身と妻のマッケンジー、数人の社員が自ら梱包をして、小包を車で配送所に送り届けるところまで全部自分たちでやっていたんです。

 コンクリートの床に膝をついて作業をしていたので、みんな背中や膝が痛くてたいへんだったそうです。

 そこでベゾスが「そうだ、膝当てを買おう!」と言い出すんですけど、ある社員が「いやいや、必要なのは膝当てじゃなくて、梱包台じゃないですか」と言って、さっそく梱包台を買ってきて生産性が倍になったという話があるんです。

 後日ベゾスは「こんなに賢い案はないと思ったよ」と語っているんですけど、ベゾスほど抜け目のない経営者ですらそんな面があるんです。どんなに優秀な人でも、自分だけでは見えない部分が必ずあるということでしょう。

【大好評連載】
第1回「まあまあ優秀な人」と「ズバ抜けて優秀な人」の根本的な違い
第2回「英語ができない」と嘆く人が知らない厳しい現実
第3回「会社にほしい人、そうでもない人」ベゾスが明かす1つの差
第4回「部下を無意識につぶしてしまう上司」のNG口癖
第5回 ベゾスの人生を変えた「異次元の天才」の衝撃の一言
第6回 伝説の「1997年のベゾスの手紙」の内容が不思議な訳

「まあまあ優秀な人」と「ズバ抜けて優秀な人」の根本的な違い関美和(せき・みわ)
翻訳家。MPower Partners Fundゼネラル・パートナー
慶應義塾大学文学部・法学部卒業。電通、スミス・バーニー勤務の後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得。モルガン・スタンレー投資銀行を経てクレイ・フィンレイ投資顧問東京支店長を務める。また、アジア女子大学(バングラデシュ)支援財団の理事も務めている。主な訳書に『誰が音楽をタダにした?』(ハヤカワ文庫NF)、『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』(NHK出版)、『FACTFULNESS 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP社)など。最新訳書『Invent & Wander ジェフ・ベゾスCollected Writings』(ダイヤモンド社)が「朝日新聞」書評(1/22付)で絶賛されるなど、メディアで大きな話題になっている。
「まあまあ優秀な人」と「ズバ抜けて優秀な人」の根本的な違い