丸井レッドカード#1Photo:PIXTA

丸井グループの元常務執行役員が、傘下のエポスカード社長在任時に生み出した発明の対価の一部支払いを求め同社を東京地方裁判所に提訴したことが、ダイヤモンド編集部の取材で3月31日、分かった。サービス業では異例となる職務発明を巡る訴訟のポイントは。特集『丸井 レッドカード』(全13回)の#1では、訴えの内容を詳報するとともに、裁判で争点になるとみられる発明対価の算定根拠も明らかにする。(ダイヤモンド編集部編集委員 名古屋和希)

原告はカード事業成長の「立役者」
異例の「ビジネスモデル特許」訴訟

 訴えを起こしたのは、丸井グループ(G)の常務執行役員を2021年に退任した瀧元俊和氏だ。瀧元氏は04年のエポスカード(当時の名称はマルイカード)発足時に部長に就任。12~16年にエポスカードの社長を務めるなどカードビジネスに長く携わってきた。

 クレジットカード業界で勝ち組とされるエポスカードで、その「立役者」である元幹部が古巣にいわば“レッドカード”を突き付ける異例の展開となった。

 訴状などによると、13年秋、当時エポスカードの社長だった瀧元氏はカードのポイントサービスに関する新たな仕組みを発明。14年秋には発明を基に新サービスが導入された。

 瀧元氏側は、丸井Gには当時、職務発明の対価を支払う規定などが存在せず、「(瀧元氏に)経済的な利益が与えられたことはない」などと主張。発明の対価を約90億円とし、今回の訴訟では、その一部である1億円と遅延損害金の支払いを求めている。

 丸井Gはダイヤモンド編集部の取材に対し「訴状が届いていないため、回答致しかねます」としている。

 従来、職務発明を巡る訴訟は、研究開発による製品や薬などが中心で、青色発光ダイオードの開発者によるものが有名だ。

 がん免疫薬「オプジーボ」の特許を巡っては、小野薬品工業が京都大学の本庶佑特別教授への解決金などの50億円と、京都大学への寄付を合わせ、計約280億円を支払うことで昨年和解した。

 一方、今回の訴訟では、ビジネスの方法や仕組みに先進性がある「ビジネスモデル特許」が対象だ。

 近年、サービス業などでも発明機会が増えているものの、知的財産に詳しい弁護士は「ビジネスモデル特許を巡る発明対価を求める訴訟は極めて珍しい」と話す。

 小売業のイメージが強い丸井Gだが、実は成長をけん引するのはエポスカードである(本特集#2『丸井がコロナで大赤字の百貨店に圧勝した理由、「小売りの異端児」のビジネスモデル詳解』参照)。

“稼ぎ頭”であるカードビジネスを育てた元幹部が古巣を訴えるという点でも異例の訴訟となる。

 次ページからは、今回の訴訟の対象となった発明の具体的な中身に加え、瀧元氏側が主張する対価の算出根拠も明らかにしていく。