ANA・JAL 黒字回復後の修羅 #1Photo:JIJI

ANAホールディングス(HD)は4月にトップが交代し、芝田浩二社長が就任した。前社長とわずか2歳差ということもあり、早くも関心が集まるのは次の世代交代の行方。次期後継者レースには王道の顔触れがそろう一方、衝撃的な人物の名が挙がる。この人物へのバトンタッチは、役員や執行役員の顔触れを激変させることにつながる。特集『ANA・JAL 黒字回復後の修羅』(全13回)の#1では、ANAHDの次期社長候補を明らかにするとともに、他の役員らを含めた経営体制をシミュレーションする。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)

覚悟を問う“次”の社長人事
後継者候補に毛色の異なる人物

「焦点は今回の社長交代じゃない。この“次”の社長人事だ」。ANAグループのある幹部は今春以降、そう繰り返す。「次のトップ人事をどうするか。上に立つ人たちの覚悟が問われる」と、別の幹部も同様のことを口にする。

 航空事業会社であるANA(全日本空輸)などを傘下に持つANAホールディングス(HD)の社長が4月1日に代わった。2015年から7年間にわたって社長を務めた片野坂真哉氏(67歳。上写真の右)が専務の芝田浩二氏(65歳。上写真の左)に社長のバトンを渡した。同時に、グループの中核であるANAの社長に井上慎一氏(64歳)が就任した。

 中途で入社した井上氏は、11年にLCC(格安航空会社)のピーチ・アビエーションを立ち上げた人物だ。ピーチで長年トップを務めた井上氏を片野坂氏は20年、ANAへ厚遇で呼び戻した。ベンチャー的な会社の社長を突然、大会社であるANAの重要ポストに据える大抜てきに社内外は仰天。片野坂氏の後継者にするのではないかとの臆測が飛び交った。

 しかし、片野坂氏は結局、井上氏ではなく芝田氏に席を明け渡した。

 芝田氏は過去最大の大赤字をもたらしたコロナショックの最悪期、片野坂氏と共に経営戦略を練り、並走してきた。どん底を脱したタイミングで回復まで導くリーダーとして適任だったのだろう。両者はわずか2歳差。この難しい局面で世代交代に踏み切ることはしなかった。

 注目すべきは、この次の社長人事である。

 コロナ禍に直面し、ANAグループは「航空一本足打法」から脱却する構造改革が至上命令となった。そんな中で、次期社長候補は誰なのか。

 後継者レースには王道を歩んできた者たちが並ぶが、そこにもう一人、毛色の異なる人物が加わる。冒頭の幹部たちは、この人物が抜てきされれば、グループの改革が進むとにらむ。

 次ページでは、スタンダードな次期社長候補を明らかにするとともに、あるイレギュラーな人物をトップに据えた経営体制をシミュレーションした。革新的な体制を敷けば、役員や執行役員の顔触れは激変する。