で、二時間ぐらいした後にまさかと思ってピンと来て、「相手役の人がちょっと物足りないですか?」とかって言うと、急に顔がふっと変わって、「そんなこと私が言えるわけないじゃないですか、でも、ほんとにこのセリフは言いにくいんですよね」っていう風になるんですよ。
中野 セリフじゃなくて、相手がダメだったわけですか。
鴻上 そうなんです。相手役が下手なのか、嫌いなのかわからないけど、とにかくこの相手役とやりたくないんだということを、ずっと、その相手役に言うセリフがわからないという形で言うんだっていうのは本当に衝撃でしたね。だからやっぱりそういう経験しないと無理じゃないかな。最初は、女優さんの話を考えてばっかりいたから、そのセリフの説明を一生懸命したわけだけど、もうちょっと早く、あれ、この人、僕が説明してても、何にも気持ちが楽になった感じがしないぞっていう風に感じていれば、二時間喋らなくても良かったかもしれない。だから、考えることと感じることを同時にしながら一番重要なことはなんだろうってことを常に思ってますね。
だから、上手に人の話を聞けるようになるかっていうのは、脳科学的にどういうかわかんないですけど、人は、ずばりと本当の本質を語ってはくれないので、その本質の周りからこの人が一番言いたいことはなんだろうっていうことを考えて感じるっていう訓練が必要だと思います。
話を聞く時の「オウム返し」は本当にいいのか?
中野 ただ愚痴を言いたいだけっていう時もありますよね。
鴻上 ありますね。俳優さんで、ぐちぐちぐちぐち言って、この人は何が言いたいんだろ、あ、とにかく愚痴を言いたいだけなんだっていう人ももちろんいるんですよ。その時は逆に、これが問題ですか? と、ピックアップしちゃいけないんです。
この人は、単にガスを抜きたくて、グジグジ言ってるだけなのか、実はもう相手役とはできないと思ってギリギリ言ってるのかっていうのは、見極めるのはほんと難しい。でも、ガス抜きだと一時間ぐらい喋ると、結構、相手の顔がスッキリしてきたりする。顔で判断できるってのはありますね。
中野 話を聞くときに、ちまたの本にはオウム返しがいいと書いてあったりしますが、ずいぶんナメてるな、と感じる人そこそこいるんじゃないですかね? 本当に聞いているかどうかなんて相手もすぐにわかりますよね。話していることに矛盾があるように思った時は、あなたの話をちゃんと聞いているよと示せるように、聞き返すのも大事ですよね。
鴻上 すごく正解だと思いますよ。オウム返しがいいですっていうのは、なんて答えていいかわかんない時にオウム返しがいいってだけの話だと思います。
特に男性は往々にして、「こんなことがあったんだよね」とグチりたいだけなのに、「それは相手が悪い」とか、「それはお前の対応がまずい」みたいな余計なアドバイスをしがちなんです。「言いたいことを先に語れ」みたいな育てられ方をされちゃったからだと思うんですけど。だから、とにかく聞いてほしいっていう人の場合は、やっぱりオウム返しが有効だったりします。