課長代理などの役職を廃止して
部長と課長だけになった
エネルギー大手のAさんは、「昔は入社年次ごとに主任、係長、課長代理、課長、次長、部長などの肩書を用意して処遇する年功的な人事管理が主流だった。今では中間の役職を一切なくし、課長と部長だけになった」と、ポストが激減した実態を明かす。
また建設大手の人事部長Eさんも、「課長と部長の間の役職を廃止した。営業など対外業務の担当者の名刺には副課長や担当部長などの肩書を付けているが、正式な役職ではない。管理職の職位が減ったので、なれない人が増えるのは当たり前」と嘆息する。
同社は近年、選択と集中による部門やグループ企業の統廃合を推進しており、それに伴うポスト減も影響しているという。
管理職になれる人が減っているもう一つの理由は、人事制度変更による飛び級などの仕組みで、同期以外のライバルと競う場面が増えているからだ。
年功序列の制限を取り払い、
飛び級で31歳課長が誕生
「従来は40歳前後で課長に昇進する人が多かった。しかし、社内等級の滞留期間の制限を取り払い、実力次第で課長になれるようにした結果、5~6年前に31歳の最年少課長が誕生し、最近では29歳で課長になった人もいる。部長昇進も以前は早くても46歳、遅くて50歳ぐらいだったが、今は41歳の部長もいる。30代前半で課長になるのは年に1~2人程度だが、40歳を過ぎても課長に慣れない人は複雑な心境だろう」と住宅大手のCさんは語る。
建設大手でも新卒入社9年目の31歳の課長が誕生した。
「飛び級制度の効果だが、早く昇進するのは業績の数字が出やすい営業系の部門に偏る傾向がある。人事評価が難しい管理部門など事務系の社員の不満が出ている」とEさんは社内の課題を明かす。
昇進年齢が早くなる一方で、昇進審査の厳格化も進んでいる。
課長昇進の審査は厳格化
上司のお気に入りでも出世できない
「昔は上司に気に入られると『よっしゃ、俺に任せておけ』という感じで昇進した時代もあったが、今は上司の推薦だけで課長になるのは難しい。過去3期の人事評価結果はもちろん、昇進試験や外部のアセスメントを使うなど慎重に審査し、落とされる人もいる。落とされると“よっしゃ、よっしゃ”の上司のマネジメント力も疑われるので、安易に推薦しなくなっている」(建設大手のEさん)
食品大手のBさんは厳しくなった審査の実態をこう解説する。
「まず課長候補者の要件は、S、A、B、C、Dの5段階の人事評価で、過去3期の平均がA以上であること。その他にTOEIC600点以上、必須の通信教育の受講が前提になる。人事部が候補者リストを作成し、上司にお伺いを立て、推薦してもらう。上司が他の部下を候補にしたくてもリストに載っていなければ、リストの中から渋々推薦せざるを得ない。その上で外部機関によるアセスメント研修と評価、さらに論文と面接、筆記試験とプレゼンテーションの結果を点数化して、昇進者が決まる」
たとえ上司のお気に入りでも、B評価(普通)だと俎上にも載らないのだ。試験に合格し、晴れて管理職になっても試練はまだ続く。
45歳で係長のままなら
それ以上の昇進は難しい
「試験をクリアすると、社内の等級がアップし、いわゆる“管理職層”に入る。ただし部下と権限を持つ本当の課長はその中から選ばれる。実際は各部門の役員以下の長の合議で決まるが、その選考基準はブラックボックスになっていて誰も分からない。辞令が下りた段階で知ることになるが、『なんであいつが』という不満の声が必ず出る」(食品大手のBさん)。
明文化された要件をクリアするだけではラインの課長になれない。上層部の意向も強く働くのだ。
ラインの課長になると部下と権限を手にするだけではなく、役職手当も付くなど給与も増える。当然、なれなかった人の嫉妬の的になる。それでも「管理職層」の枠に入れるだけでましな方だ。45歳を過ぎると、そもそも昇進も難しくなる。
「45歳までB評価だった人は、新規プロジェクトで成果を出すなど、仕事に恵まれなければA評価を取るのは難しい。45歳で係長のままの人は専門職を目指したり、グループ会社に出してもらったりするなど次の手を考えた方がよい」(建設大手のEさん)
部長昇進の要件は
昭和の時代と変わらない
ラインの課長に昇進する際には前述のように、上層部の意向が強く働く。しかし、部長への昇進となると、さらに複雑な力学が働く。
エネルギー大手のAさんは、「部長は『役員予備軍』の位置付けで、そこが課長との最大の違いだ。部の経営はもちろんきちんとやる必要があるが、いざとなったときに会社の経営に携われる人材かどうかが大きな要素になる。部長の急死など、いなくなった場合の後釜を決めておくサクセッションプラン(後継者計画)を作る企業もあり、少なくとも2番手ぐらいに入っていないと昇進は難しいだろう」と語る。
一方、住宅大手のCさんは「部長への昇進に筆記試験がない。儀式としてのプレゼンはあるが、事業部長、本部長、場合によっては副社長クラスの目に留まらないとチャンスが回ってこない。課長になるには厳格な要件があるが、その上の選別では一気に昭和の時代に逆戻りする」とぼやく。
取材した5人はいずれも部長・執行役員にまで上り詰めている。後編#18『「45歳の同期の年収格差は700万円」人事部長5人が語る部長・課長昇進のリアル【後編】』では、5人が実践した出世の作法や、課長や部長の出世格差や役職定年の実態についてお届けする。
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