ロレックスが日本で“爆上がり”している理由
海外時計「ハイパーインフレ」の謎を徹底解明

 いったいなぜ、輸入時計は値上がりを続けているのだろうか。

 実は、スイスをはじめとする輸入時計の値上がりは、今に始まったことではない。スイス時計協会の統計を基に試算すると、スイス時計の完成品輸出単価は、ここ5年ほどの間に2倍に跳ね上がっている。世界的な物価上昇による原材料費の高騰がその一因だ。

 さらに2020年以降、コロナ禍で腕時計を生産する世界中の工場の稼働がストップしたため製品の流通量が激減してしまい、一層の価格高騰を招いた。しかもこの時期には、富裕層でこれまで時計に関心を持たなかった人たちも、高級時計に目を向け始めていた。コロナ禍で旅行などレジャーの楽しみを奪われたアッパークラスの人々が、資産価値のある時計に豊富な資金の使い道を見いだしたからだ。これが高級時計のさらなる需要増をもたらし、時計のハイパーインフレに拍車を掛けた。

 ロレックスに限っていえば、そこに日本特有の事情が加わる。「10年代後半に、ロレックスがアジアの注力拠点を日本やシンガポールから、需要が急速に伸びている中国に移したようだ。それによりロレックスが品薄になっていたところにコロナが追い打ちをかけた。新品の価格が高騰しているので、それにつられて中古品の値段も上がっている」(前出の時計業界関係者)というのだ。

 輸入時計のハイパーインフレは、高級品に限った話ではない。ある時計販売店の関係者は、価格のトレンドについてこう語る。

「高級時計はもちろん、低価格帯でも値上がりは続いている。16年ごろには数万円で手の届きやすかった輸入時計が、毎年1万~2万円のペースで値上がりを続け、今では10万円を突破したものもある。そんな中でも、日本勢はあまり値上げせず踏ん張っている」

スイス勢と日本勢で圧倒的な価格差
国産ブランドで勝機を見いだすのは

 しかし、この日本勢の踏ん張りは、喜ばしいこととは限らない。「日系時計メーカーは、海外高級時計に対抗できるほどのブランド力が構築されているわけではないから、安易に値上げできない状況にある」(時計業界に詳しいアナリスト)との声が上がっているのだ。

 では、“格差”はどれだけ広がっているのだろうか。下表を見れば、日本勢とスイス勢の価格差は一目瞭然だ。

 必ずしも、高価な製品にブランド力が備わっているとはいえない。しかも表で列挙した国産ブランドの中には、そもそも海外高級時計を競合と見なしていない製品が多い。とはいえ、現在は「日本勢がそろって高級路線を進めている」(前出の時計業界関係者)状況であることを考えると、日系メーカーはスイス勢の圧倒的なブランド力の前になすすべがなく敗れ去っているように見えてしまう。

 しかし、光明も差し込んでいる。業界関係者たちが、ある国産ブランドを「海外高級時計に対抗できる唯一のもの」と評しているのだ。