日本勢ではグランドセイコーが先陣
国産の他ブランドも続けるか
そのブランドとは、ずばりグランドセイコー(GS)だ。1960年に誕生したGSは、セイコーの「グローバルブランド」戦略に乗り、海外でも着実に存在感を増している。「セイコー」ではなく「GS」という独自ブランドとして展開したことが、高級ブランドとして認知されるのに一役買っているのだ。
GSは、22年にジュネーブ時計グランプリにおいて、卓越した精度を備えた時計に贈られる「クロノメトリー」賞を受賞している(対象モデルは「グランドセイコー Kodo(鼓動)」)。21年度の「メンズウオッチ」賞に続き、2年連続の受賞となる。GSが価値あるブランドとして世界的に認められつつある証しといえよう。
日系の他社ブランドの関係者は、「元々セイコーは機械式時計の歴史が長く、世界的にも認知されていてブランド力が多少あったので、値段を上げやすかった。それだけでなく、スイス時計に劣らぬ技術力もあるので、メード・イン・ジャパンの筆頭として存在感が高まっている」と語り、競合のGSに舌を巻く。
特に評価されているのが、日本ならではの技術だ。セイコーグループで販売に携わるある社員は、「白樺林をイメージしたモデルなど、日本の職人芸を感じられる時計は、特に外国人の間で人気だ。円安の影響もあり、最近は日本で購入する外国人観光客も多い」と顔をほころばせる。
他の国内メーカーもセイコーの快進撃を黙って見ているわけではない。例えばシチズンは、昨年「カンパノラ」で900万円台のモデルを発売した他、10年以上前から積極的にM&Aを行っており、スイスのARNOLD&SON(アーノルド・アンド・サン)をはじめ、海外ブランドを傘下に置くことで高価格ゾーンでの勢力伸長を図っている。
一方のカシオは、主力とする「G-SHOCK」が特定のファン層向けであり、海外高級時計と客層のターゲットが異なるものの、高価格帯への注力に余念がない。昨年には、G-SHOCKの最上級ライン「MR-G」の新作として、刀鍛冶の技術を取り入れた90万円台の製品を発売している。
高価格帯のグローバル展開では、GSを軌道に乗せたセイコーが先陣を切った形だが、シチズンやカシオも追随し、切磋琢磨している。元々、日本の時計は技術も歴史もあるので、世界でもっと戦っていけるポテンシャルはあるといえる。
コロナ禍で苦しんだ日系時計メーカー3社は、数字の上では息を吹き返しつつあるように見える(各社の業績回復については、本特集の#4『時計3社「独り負け」のセイコーが反撃の狼煙!エプソンとの腐れ縁が復活の鍵に』参照)。しかし、本特集で触れている通り、国内時計“御三家”は、それぞれ経営体制や他事業に課題を抱えており、決して順風満帆とはいえない状況だ。
グランドセイコー以外の日系国産ブランドが、海外高級時計の群雄割拠の中で戦えるようになる日は来るのだろうか。
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