SBIホールディングスと台湾の力晶積成電子製造(PSMC)が宮城県に建設する半導体工場のプロジェクトの全貌が見えてきた。台湾積体電路製造(TSMC)とラピダスに続く、国内での巨大半導体工場の建設計画だ。日本市場で自動車産業やAIの半導体需要を掘り起こす狙いがあるが、ダイヤモンド編集部の取材で、ある日本企業が大口顧客として浮上していることがわかった。さらに、米エヌビディアの対抗を見据えたもう一つの大戦略の存在も明らかになった。特集『高成長&高年収! 半導体160社図鑑』の#8で、トヨタ自動車ら日本の自動車メーカーの半導体の安定調達を左右する有力顧客の存在に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
TSMCに続く台湾半導体の大型計画が本格始動
新工場の成否を左右する大口需要家の存在
台湾積体電路製造(TSMC)に続く、もう一つの台湾企業の日本進出プロジェクトが本格的に動きだした。
日本政府は、SBIホールディングスと台湾の半導体受託生産会社(ファウンドリー)の力晶積成電子製造(PSMC)が合弁で宮城県大衡村に建設する半導体工場に、1400億円を補助する方針を固めた。関係者によると、経済産業省はすでにSBIに「内定」を伝えたもようだ。
これを受けてSBIは、半導体工場の運営会社に1000億円前後を拠出する方向で調整を始めた。国内の自動車メーカーや金融機関の出資を募っているほか、銀行団の協調融資を活用して、工場の投資資金を調達する。
新工場の投資総額は約8000億円。2027年の稼働開始に向けた1期の投資は約4200億円で、その3分の1を政府が補助する。第2期の追加投資で設備を増強し、29年に本格稼働する。
政府支援で巨大半導体工場を新設するのは、TSMC熊本工場(熊本県菊陽町)、ラピダス千歳工場(北海道千歳市)に次いで3カ所目。補助金の規模は、TSMCの総額1兆2080億円、ラピダスの9200億円、キオクシアの2492億円、米マイクロン・テクノロジーの2135億円に次ぐ巨額支援になる。
ただ、宮城県の半導体工場は「先端」ではない。ラピダスやTSMC熊本工場より古い世代の製造ラインだが、ある日本政府の関係者は「米国の輸出規制で最先端半導体の生産ができない中国は、レガシー半導体に集中投資して生産能力を急増させており、日本でもレガシー半導体の生産能力を確保しておく必要がある」と指摘する。
先端半導体だけではなく自動車や産業機器に欠かせないレガシー半導体も巨額支援の対象になり得るとの見解だ。経済産業省は、経済安全保障に必要な「国内工場」としてSBIとPSMCの宮城工場を補助金の支給先として検討していた。
新工場の安定稼働のためには、日本における大口顧客が必須だが、ダイヤモンド編集部の取材で、有力な日本企業と半導体供給の協議を進めていることが分かった。
さらに宮城工場には、もう一つ大きな柱として、米エヌビディアのAI半導体の躍進に対抗する新戦略があることも分かった。
次ページで、自動車産業に大きな影響力を持つ大口顧客候補の存在と、AI半導体の勢力図を変えようとしているもう一つの大戦略に迫る。