地方創生にはインバウンドのみならず
企業誘致と支援や教育が“分かれ目”に
NTTは光を用いた次世代の通信技術、「IOWN」(Innovative Optical and Wireless Network)プロジェクトを強化している。その一つに「光半導体」がある。消費電力量を減らし、より高速で遅延の少ない無線通信システムを実現するため、国内の半導体関連企業に対して製造技術面での要請が増えるだろう。
これまでの地方経済は、主に訪日観光(インバウンド)需要や、自動車など既存産業の生産と輸出の増加を支えに持ち直してきた。それに、半導体という新しい需要の源泉が加わった意義は大きい。
前述した事例の他にも、キオクシアとウエスタンデジタルは三重県四日市市で、フラッシュメモリの生産能力を拡張する。また、宮城県では台湾の力晶積成電子製造(PSMC)が半導体工場を建設する。
こうした半導体分野での設備投資を足がかりに、周辺の道路網や発送電体制を強化できる地域には、半導体の「後工程」と呼ばれる封止剤や、研磨剤などに関する研究開発や生産拠点も増えるだろう。そうして勢いを増すことにより、TSMCや韓国のサムスン電子、米インテルなどの有力半導体メーカーによる対日直接投資も増えるかもしれない。
成長期待の高い企業が集まる地方では、ブドウの房が豊かに実るように産業の集積が加速する。人の往来は活発化し、鉄道や空港の整備も進む。首都圏あるいは海外と地方を結ぶ動線が強化されることで、飲食、宿泊、交通、不動産や小売りの企業も投資を増やす。こうした展開ができる地方では、経済の活力は高まるだろう。
一方で、一般的に地方では人口が減少し過疎化が進んでいる。地域の社会と経済の活力は停滞し、自力での自治体運営が難しくなる市町村が激増するリスクが高いとみられている。
半導体など先端分野で産業政策を強化し、迅速な補助金支給などができるか否かが、主要国の経済運営に大きな影響を与えている。同じことは地方創生にも当てはまる。産業誘致のための用地開発や設備投資の補助、人材供給のための教育拡充などを強化できるか否かが、中長期的な地方経済の発展、わが国の本格的なデフレ脱却を左右することは間違いない。