【93】2005年
ハゲタカか救世主か
日本を買いまくった外資ファンド
小泉純一郎、竹中平蔵コンビが進めた構造改革は、民間企業の活力を引き出すために、政府の規制を緩和して市場の自由な競争原理を最大限に働かせる「市場原理主義」「新自由主義」に基づいたものだった。
その象徴とされるのが、外資ファンドの跋扈(ばっこ)である。海外の投資家にとって、バブル崩壊の反動で割安感が出ている日本の株式や不動産は絶好の買い場となっていた。
しかも日本では当時、金融庁方針により銀行は不良債権残高の削減を迫られていた。不良債権の最終処理の手だては、融資先を債権放棄で再生させるか、法的整理に持ち込むか、外部に売却するか、この三つしかない。銀行は数十社、数百社分の不良債権をひとまとめにして、「バルクセール」で外資ファンドに売り払った。
また当時、銀行は株式持ち合い解消を余儀なくされていた。銀行が株を売った事業会社の株を外資ファンドが買いあさる。バブル崩壊後こそ低迷していた日本の株式や不動産だが、“負の遺産処理”が進むにつれ上昇に転じていたので、外資が買った資産は巨額の含み益を生んだ。
二束三文で買い取った資産を短期間で切り売りするファンドは、死肉をあさる様子に例えて「ハゲタカファンド」と呼ばれた。こうした当時の状況が、2005年4月23日号の「外資ファンド全解剖」という特集でつぶさに描かれている。
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新生銀行(旧日本長期信用銀行)を買収し、「日本買い」の嚆矢ともなったリップルウッドは、新生銀行上場で約2890億円の株式売却益を得た。買収決定からわずか4年の早業である。
あまり知られていない話だが、リップルウッドのクリストファー・フラワーズ会長は、新生銀行上場で得られた利益の一部を母校のハーバード・ビジネススクールに寄付。栄誉ある卒業生寄付金ランキングのトップにまでなった。
リップルウッドだけではない。同じ米国ファンドのサーベラスも、日本企業を買い漁った。長銀と同じく経営破綻した日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)、ダイア建設、昭和地所、木下工務店。最近ではコクド・西武鉄道グループにも食指を動かしているとささやかれている。
ちなみに、「サーベラス」とは、ギリシャ神話に出てくる「地獄の番犬」のこと。首が三つあって、鋭く黒い牙を持ち、この牙に噛まれた者は即死すると百科事典には書かれている。不良債権や倒産企業に投資するディストレスファンドは「ハゲタカ」と呼ばれるが、「ハゲタカ」ならぬ「地獄の番犬」とは、なんとも物騒な名前があったものである。
こうしたファンドにとって、過ぐる数年間は、正しく「日本大バーゲンセール」だった。2000億円の資金をつぎ込んだ宮崎の一大リゾート「シーガイア」を、リップルウッドはわずか180億円で買い取った』
外資ファンドといっても、経営不振に陥った企業を買収し再生させることで利益を得る「バイアウトファンド」、株式や債券に投資する「ヘッジファンド」、未公開企業を中心に投資する「プライベートエクイティ・ファンド」、土地や建物に投資する「不動産ファンド」などさまざまある。高い利益を上げている優良企業に株主への利益還元を迫る「もの言う株主」も、この時期に話題を呼んだ。
考えてみれば、安く買って高く売るのは商売の基本である。外資ファンドが手掛けた案件の中には企業再生に成功して売却された例も多く、硬直していた日本の産業界に変革の刺激を与えたといってもよい。