あるとき、配管部で「面倒なことを教えてください」と、どストレートに声をかけてみたところ、驚くほど本音が集まった(2024年9月現在、約400件)。「私たち一般職の強みは部門の言葉が分かること。かしこまった表現より普段使いの言葉のほうが、みんなの本音を引き出せるんです」と浅野さん。全社向けにも「面倒リスト」に改名し、社内売店の電子マネー導入など、具体的な改善につながっている。
浅野さんは現在、データ処理ツール「Alteryx」の全社展開を進めている。この取り組みは、前編で紹介した全社の工数30%削減の約3割を占めるまでになり、海外のグループ5社約200人に向けてもトレーニングを展開しているという。
完全に転部せず、経理財務のままでいるほうがデジタル化が進む
嶋田雪乃さんは、経理財務本部とデジタルファーストチームを兼務している。「完全に転部してしまうと『外の人』みたいになってしまう」と嶋田さん。経理財務本部にも携わり続けるからこそ、現場の機微をより深く理解した上で、説得力を持ってデジタル化の必要性を伝えられるという。
嶋田さんは2023年、DXoT推進部が実施した一般職向けの「DX OJT」をきっかけにチームに加わった。「以前からペーパーレスや自動化に興味があり、自分でも細々取り組んでいた」という。嶋田さんは、デジタルファーストの活動を通じて頭角を現し、新たなツールを導入するため本部長へのプレゼンテーションも経験。12月からの本格稼働を目指して邁進中だ。
DXoT推進部長の瀬尾範章さんは、「デジタル化で仕事がなくなるのではなく、むしろやりたい仕事にチャレンジできる環境が整ってきた」と語る。社内では、希望する一般職が既存の枠を超えて挑戦できないか議論しているという。例えば、浅野さんは設計業務に意欲的だ。これまで一般職には難しいと考えられてきた領域も、デジタルを味方にすれば、何か可能性が開けるかもしれない。
描かれた未来を超えて
2019年、デジタルファーストチームは2025年の働き方を描いたアニメーションを制作した。フリーアドレス化など、そこに描かれた未来の一部はすでに現実となった。しかし、想像をはるかに超えた変化がある。AI活用だ。
「当社でもAI活用を進め始めています。高度な業務だけでなく、日常的にAIと一緒に仕事をすることが当たり前になっていくはず。そういう時代に置いていかれないよう、私たちも進化していきたいです」(原田さん)