矢部 武
新型コロナウイルスの猛威により、世界最強の感染症対策機関を持つ米国は、世界最大の感染国になった。これはひとえにトランプ大統領の失策だが、緊急事態下の大統領は支持率が上がる傾向もある。トランプは再選を果たせるのか。

米連邦最高裁は政府に対して、国勢調査に市民権の有無を問う質問の追加を認めない決定を下した。トランプ政権にとって大きな敗北となったが、非白人を抑え込もうとするトランプの「再選アピール」は揺るぎない。彼を支持する国民の心情とはどんなものか。

トランプ大統領の司法妨害などの調査をめぐり、大統領の弾劾が取り沙汰されている。足もとではペロシ下院議長が弾劾に慎重な姿勢を見せるなど、事態は膠着状態を迎えている。実は大統領弾劾には、意外と知られていない「抜け道」もある。

ロシア疑惑などを捜査してきたモラー特別検察官が捜査報告書を司法省に提出し、「トランプ陣営とロシア政府の間に共謀はなかった」としたことで、トランプ大統領は高らかに勝利を宣言した。しかし、これでトランプ大統領の「完全な潔白」が証明されたわけではなく、大統領に対する議会の追及はむしろ激しくなることが予想される。

米アマゾン創業者兼CEOのジェフ・ベゾス氏が、タブロイド紙オーナーのデービッド・ペッカー氏から脅迫されたとする事件が大きな注目を集めている。トランプ大統領に批判的な新聞社のオーナーであるベゾス氏に、打撃を与えるために行ったのではないかとの指摘もある。はたして真相はどうなのか。

昨年の中間選挙で野党民主党が議会下院の多数を奪還したことで、これまでトランプ大統領のやりたい放題だったワシントンの政治が大きく変わった。民主党重鎮のナンシー・ペロシ下院議長は、「これから大統領のあらゆる疑惑について、調査を進めていきたい」と述べ、大統領に対する弾劾訴追を排除しない考えを示した。

これまで米国議会では与党共和党が上下両院の多数派を維持していたため、議会はトランプ政権に対するチェック機能を十分に果たしてこなかった。しかし、民主党が下院の多数派を握ったことで、各委員会の委員長を民主党議員が務め、調査権を持ち、審議の主導権を握ることになる。

2016年の大統領選の前に多くの人がトランプ候補について、「こんなまぬけに誰も投票するはずはない」と指摘し、「民主党のヒラリー・クリントン候補が勝つだろう」と確信していたなかで、アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したことのあるマイケル・ムーア監督は、トランプ氏の勝利を予想していた。

かつて「大統領のためなら銃弾も受ける」とまで語ってトランプ氏への忠誠を誓っていたマイケル・コーエン元顧問弁護士が8月21日、ニューヨークの連邦地裁で司法取引に応じ、「トランプ氏の指示のもとで犯罪行為を行った」と証言した。

6月28日、米メリーランド州の新聞社が散弾銃を持った男に襲撃され5人が殺害される衝撃的な事件が起きた。米国では学校での銃乱射事件が多発しているが、新聞社が標的にされるのは異例。そのため、メディアを激しい言葉で攻撃してきたトランプ大統領にも責任の一端があるのではないか、との批判が高まっている。

米朝首脳会談から帰国したトランプ大統領は早速自画自賛のツイートを発信。しかし、そんな高らかな勝利宣言とは反対に、米国のメディアや議会の反応は非常に厳しいものだった。

このところ派手な外交を展開しているトランプ大統領だが、国内に目を向ければまさに崖っぷちに追い詰められている。トランプ大統領が性的関係を持ったとされる元ポルノ女優に支払った口止め料が、選挙資金法違反にあたる疑いが出て、大統領の個人弁護士がFBIによる家宅捜索を受けたのだ。

1年以上かけてトランプ政権の関係者に取材し、暴露本『炎と怒り―トランプ政権の内幕』を出版したマイケル・ウォルフ氏は、「複数の情報筋が“トランプ氏は大統領職を続ける精神的能力に欠ける”と言った」と主張している。実は議会でも最近、トランプ大統領の精神状態を懸念する声が高まっている。

「トランプ大統領は政権を覆う雲を取り除くために捜査中止を求めた」というが、それが明らかになったことで、米国内で「トランプ弾劾」を求める声が一段と高まってきた。ロシア疑惑の捜査が新たな段階を迎えるなか、トランプ大統領の命運も尽きかけている。

昨年の米大統領選で投票日の2ヵ月前トランプ候補の勝利を予測していた、アメリカン大学のアラン・リヒトマン教授。独自の選挙予測モデルを使って予測を的中させた教授が今度は、「トランプ大統領は4年の任期を全うできない」との予測を発表した。

米国ではいま、トランプ大統領の自己制御がきかない衝動性や精神不安定性に対する懸念が高まっている。きっかけは2月半ばに35人の精神科医らが連名でニューヨーク・タイムズ紙に送った、「トランプ氏は重大な精神不安定性を抱えており、大統領職を安全に務めるのは不可能だ」とする内容の投書だった。

第74回
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第235回
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