安倍晋三首相12月9日夕、臨時国会の閉会に当たって開かれた恒例の記者会見で、質問に答える首相の安倍晋三。会見は終始、政府側のペースで進んだという Photo:JIJI

 臨時国会が閉会した12月9日夕、閉会に当たって恒例の首相記者会見が官邸で行われた。その会見の模様はNHKで中継放送されたが、過去の会見と比較しても相当お粗末な部類に入るのは間違いないだろう。首相の安倍晋三と内閣記者会の双方から「国民の知る権利」に応えるという使命感、熱意が一向に伝わってこなかったからだ。

 政治部記者にとって首相会見はあらゆる会見の中でも群を抜く重みがあるが、テレビカメラが会見場全体を映した際に目に飛び込んできたのは、驚くほどの空席の多さだ。長期政権を担い、会見慣れした首相とまともにやりとりするには、記者席がびっしり埋まっていることも重要な要素だが、その意識もなかったようだ。

 臨時国会で浮上した「桜を見る会」を巡る安倍の公私混同疑惑の解明は消化不良のまま。そこで注目されたのが記者会見だったが、予定調和を絵に描いたような「セレモニー会見」に終始した。

 会見冒頭は安倍が延々と臨時国会の成果を強調。司会も内閣広報官。会見は完全に政府側に支配された。官邸の記者会見の主催者は内閣記者会にあることを忘れてしまったのか。まず型通りに幹事社が質問し、その後、司会が顔見知りの日本人記者と海外メディアの東京特派員を指名、さらにネットメディアの記者、日本人記者が質問して「予定された時間になりました」で終わった。

自民党内でも評価が
分かれた「解散断行説」

 ただ安倍は自らの意思を伝える目的を達したのではないか。そんな発言が2カ所あった。一つは安倍が執念を燃やす憲法改正だ。

「決してたやすい道ではないが、必ずや私自身の手で成し遂げていきたい」

 そしてもう一つが衆院解散を巡る質問への答えだった。

「国民の信を問うべき時が来たと考えれば、断行することにちゅうちょはない」

「改憲」と「解散」は別個の問題に聞こえるが、安倍の自民党総裁としての残り任期が2年を切った中では密接に絡み合う。これをどう読み解くかで自民党内でも評価が分かれる。「早期解散の断行」と受け取った幹部と、「当面解散せず」という正反対の解釈を示す幹部がいる。解散断行説は9日午後に国会内で開かれた自民党役員会での安倍発言からにわかに浮上した。出席した幹部の一人の証言がある。

「総理が初めて『常在戦場』という言葉を使った。いつでもやるぞという強い思いが伝わった」

 記者会見はこの後に開かれており、安倍の「断行することにちゅうちょはない」との会見発言は「額面通りに受け止めるべきだ」というわけだ。背景には「桜を見る会」がクローズアップされている中での世論調査結果がある。内閣支持率は急落しておらず、社によってばらつきはあるが下落率は最大でも5ポイント前後で、40%を切った調査はない。

 支持率と不支持率の逆転も起きていないことも安倍を強気にしている。逆に野党各党の支持率は伸び悩む。さらに安倍の自信の背景にあるのが、副総理兼財務相の麻生太郎が寄稿した雑誌「文藝春秋」最新号の記事だ。

「安倍総理が本気で憲法改正をやるなら、もう一期、つまり総裁四選も辞さない覚悟が求められるでしょう」

「この記事に相当刺激を受け、再び解散総選挙で政権浮揚を目指す意思を固めたのではないか」(幹部)。安倍に近い別の幹部も早期解散説に傾く。

「通常国会では『桜』だけでなく違う問題も出てくる可能性は排除できない。それならば、選挙で決着をつけようと総理は考えている」

 これに対して全く逆の「解散なし」とみる幹部もいる。キーワードは会見で安倍が口にした改憲発言にあるという。

「必ずや私自身の手で成し遂げていきたい」