高カカオ市場は
10年で1144.4%の急拡大
25年前まではカカオに関するエビデンスが乏しかった。しかし1995年以降、「チョコレート・ココア国際栄養シンポジウム」の開催を発端に研究が進むと、チョコの健康効果に注目が集まる。メーカー側はそこに千載一遇の商機を見いだし、カカオの含有量が多い「高カカオ」の増産に踏み切った。
さらに10年ごろからの健康志向ブームに目を付けた各社の積極的なプロモーションによって、「どうやらチョコレートが健康にいいというのは本当らしい」と消費者の負の印象が消えつつあった。ところが長年、甘いチョコレートに親しんだ消費者には高カカオは「苦くてマズイ」。そのため各社は高カカオならではの香りや風味を楽しめる商品を生むべく開発にいそしみ、成長がようやく軌道に乗ってきたのである。
では、前述の説は何だったのか。カカオ豆にはチョコレートの栄養の源である豊富な油脂「ココアバター」が含まれる。しかしこの油脂は植物油脂と比較して体内に吸収されにくいのだ。となると「太る」説は、カカオを加工する際の砂糖などの甘味料が原因と考えられる。
チョコレートにはなぜ
リラックス効果があるのか
「鼻血が出る」説は、チョコレートの栄養価の高さを表したものだといわれる。子供が食べ過ぎないようにいさめるための表現として使われていたにすぎず、実際に鼻血が出た人はほぼいないだろう。しかしカカオには「カカオポリフェノール」が多く含まれており、人体の血流を促進させる。ひょっとしたら、まったくの俗説とは言い切れないかもしれない。
「虫歯になる」説はどうだろうか。近年の研究により、カカオと虫歯の直接的な関係は明確に否定されている。驚くなかれ、それどころかカカオには虫歯を予防する働きがあるという。悪さをするのはあくまで砂糖などの甘味料。それらが多く含まれていなければ、むしろチョコレートは虫歯予防になるのだ。とはいえ歯磨きは忘れずに。
なお、カカオ豆には「カフェイン」と似た分子構造を持つ、「テオブロミン」という有機化合物が含まれる。覚醒作用が強いカフェインに対し、テオブロミンは気持ちを解きほぐし、集中力を高める。近年、耳にすることの多いチョコレートの「リラックス効果」はここから来ているのである。
Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic by Tatsuya Hanamoto