MaaSという言葉が流行して久しい。だが、期待とは裏腹に国内に有力なサービスはまだなく、一種のバズワードに終始している感もある。特集『賢人100人に聞く!日本の未来』(全55回)の#38では、配車アプリをいち早く手掛けるなど、タクシー業界の変革をリードしてきた日本交通の川鍋一朗会長に、日本のMaaSについて持論を聞いた。(ダイヤモンド編集部 山本 輝)
日本はすでに「MaaS先進国」
日本交通会長がそう語る理由とは?
――モビリティでは、「MaaS」(マース。次世代移動サービス)という言葉が流行する一方、海外に比べて国内での普及状況はまだまだです。現状をどう見ますか。
むしろ、私はすでに日本はMaaS先進国だと思っています。というのも、モビリティ・アズ・ア・サービス、つまり自家用車ではなくサービスとしてのモビリティという意味においては、日本の都市部では鉄道やバス、タクシーといった公共交通手段が相当整っていますので、すでに「所有から利用」になっていますよね。
昨今いわれているMaaSは、アプリ上で全ての交通手段を一気通貫で予約・決済できるサービスを指すことが多いですが、これも日本ではいわゆる交通系ICカード、例えばSuicaがあり、電車、バス、タクシー全部に一つのカードで乗れます。アプリがなくても、その都度Suicaだけでピッピッと支払いができてしまうので、相当価値の高い体験がすでにできます。これこそが私の考える、そもそものMaaSのイメージです。
――公共交通機関が発達している日本はすでにMaaSの環境が整っていると。
ええ。日本ではもともと私鉄を中心とした鉄道会社が強かったので、鉄道会社がその発展として、沿線でバス会社やタクシー会社を運営してきました。だから、古くからMaaSの母体が日本にはあったということです。
確かに最近いわれているMaaSアプリは、テクノロジーとしては新しいものですが、それを使って単に移動サービスをつなげるだけだと、「Suicaとどっちが利便性高いですか?」っていう話になってしまう。単に交通手段をつなげたり予約・決済ができたりするだけのアプリでは、あまり作る価値がない。これだけ数年騒がれていても、現時点でMaaSアプリを日常的に使っている人は周りにはあまりいないわけですから、観光型MaaSとかの例は別にして、日本においては必ずしも海外でいわれているようなMaaSアプリを作る必要はないんじゃないかなと思っています。
むしろ重要なのは、日本は元からあるインフラが強いので、その個別の機能を強化したり、サービスを改善したりすることでしょう。電車なら電車、バスならバス、タクシーならタクシーという、個々のサービスをもっと強化することが、最終的にお客さまの利便性を上げることにつながる。
――具体的には。