大規模検査は逆に感染拡大のリスク大
多くの“ぬれぎぬ”者を出す人道的問題もはらむ

 つまり、検査を行う人の中にどのくらいの割合で真の感染者がいるか(有病率)によって、同じ検査でもその値が変わってしまうわけだが、ここでPCR論争における両派が、検査のターゲットにすべきだと主張する集団を振り返ってみよう。

 まず「有症状もしくは無症状なら濃厚接触者など必要な人を対象とすべき」派は、感染している恐れがある、つまり有病率がある程度高いであろう層をターゲットに絞って検査をすべきだと解釈できる。

 一方「国民全員PCR」派が想定するターゲットは、有症状や濃厚接触者の集団と比較すると、はるかに低い有病率であることは容易に想像できる。日本で最も感染がまん延している東京都でも、12月に実施されたコロナの抗体検査(陽性なら過去の感染を意味する)で陽性は0.9%だった。

 つまり、先ほど求めた数字なら(3)に近いわけで、陽性適中率は有病率が低いほど下がり、陰性適中率は逆に上がる。実はこの数字から「国民全員PCR」派が主張する大規模検査の重大な欠陥をあぶり出すことができる。

 まずは、陰性適中率。(3)の陰性適中率は99.69%だから、「本当は感染ありなのに陰性と判定された人(偽陰性)」は、わずか0.3%ほどで、問題がないように思える。しかし、なにしろ「国民全員PCR」なのである。感染拡大を防ぐ上では、陰性適中“率”よりも絶対数の方がはるかに重要になるのだ。

 ここでは計算式は省くが、(3)の条件(1%の有病率)では偽陰性は200人の集団なら1人出るか出ないかだ。ところが、100万人が対象では、偽陰性が3000人程度も出てしまう計算になる。

(3)は三つの条件の中で、最も偽陰性率が低いのに、その結果なわけだから、有病率の高低にかかわらず、まず大規模検査自体が本当は感染しているのに“陰性”のお墨付きを得た人を大量に街に放出するリスクが非常に高いのだ。その上、「検査で陰性なら」と、マスクなどの感染対策をしないで他人と接する可能性も十分考えられる。

 現在の検査の能力では、大規模検査が逆に感染を拡大させてしまう恐れがあることは、PCR検査を論じる上で、まず知っておく必要がある。

 もう一つ、感染拡大の観点以外でも「国民全員PCR」派が見落としている大規模検査の重大な欠陥がある。